【専門家が解説】ギフテッドの凸凹|得意と苦手の差が大きい理由

「この子はこういう子だから」
この言葉は、一見すると受容的で、温かく聞こえる言葉です。
でも、その言葉が使われた瞬間に、何かが閉じてしまうことがあります。
筆者は15年以上、児童福祉の現場で子どもたちと向き合ってきた中で、そう感じる場面が少なくありませんでした。
「個性」として受け止めることと、「特性」として理解することは、似ているようで、まったく違います。
この記事では、ギフテッドの子どもに多く見られる知能の凸凹が、子ども自身の内側でどんな体験を生んでいるのかを、専門家が詳しく解説します。
この記事を書いた専門家

日塔 千裕 ひとう ちひろ
公認心理師・臨床心理士
発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。
ギフテッドの凸凹とは─「得意」と「苦手」の落差の大きさ
WISC-Vの検査では全検査IQ(FSIQ)のほかに5つの指標が測定されます。
そしてギフテッドの子どもに多く見られるのが、この指標間に大きな差がある状態、凸凹が著しく大きいパターンです。
人には誰でも、得意なことと苦手なことがありますし、それ自体は自然なことです。
しかし、WISC-Vなどの心理検査で「指標間に有意な差がある」と判断される凸凹は、実はそれほど多くの人に見られるわけではありません。
統計的に見て、同年齢集団の中でも一定水準以下の割合しかいない差です。
つまり、「誰でも多少の得意不得意はある」という話とWISC-Vでの「凸凹」は、少し次元が異なる話なのです。
ギフテッドの子どもの場合は、WISC-Vでの「凸凹」の幅が、さらに極端に大きいことが珍しくありません。
たとえば、言語理解が130を超える水準にある一方で、処理速度が90前後という場合も。
数字だけ見れば処理速度90というのも年齢相応の水準で「どちらも問題ない」と思われるかもしれません。
学校の先生や親など周りの大人たちには「ノートを書こうとしない」「書くことを面倒がっている」「やる気がない」と映ることもあります。
でも、その背景には40ポイント以上の落差が関係しています。
言葉で考えることは飛び抜けてできるし、頭の中ではすでに答えが出ていて整理もできている。
けれど、それを手を動かして書き出すという作業になると、思考のスピードに追い付かず、本人にとって「面倒」「苦痛」と感じさせてしまうことがあるのです。
決して、怠けているわけでも、やる気がないわけでもなく、思考のスピードと手を動かすスピードのミスマッチが、そういう姿として現れていることがあります。
なお、ギフテッドの子どもすべてに著しい凸凹があるわけではありません。
指標間の差が小さく、全体的に高水準でまとまっているケースも一定数見られます。
そうした「凸凹なし」のケースについては、次回以降の記事で詳しく扱っていきますので、そちらもあわせてご覧ください。
子どもの内側で何が起きているか
子どもの内側では何が起きているのでしょうか。
まず知っておいてほしいのが、高い認知能力は「逆に自分の苦手を鮮明に自覚させる」ことがある、ということです。
知能が高いことの裏側
知的能力が高いということは、自分の状況をよく把握できるということでもあります。
「自分はなぜこんなことができないのか」「みんなは平気なのに、なぜ自分だけ」
などの思いを、子どもは誰に言うわけでもなく、一人で抱えていることが多くあります。
しかも、その思いが非常に精緻で、深い問いのことが多いです。
表面上は普通にしていても、内側では静かに“できない”自分を責め続けているケースが、臨床の現場では珍しくありません。
そしてその自責は、場合によっては年齢を重ねるほど深くなっていく傾向があります。
幼い頃は「なんかうまくいかない」という漠然とした感覚だったものが、認知能力の発達とともに「自分はここが弱い」などとしっかり言語化でき自覚されるようになっていきます。
ここで重要なのが、「周囲との比較」よりも「自分の内側での落差」に傷つくメカニズムです。
「他の子よりできない」ことではなく、「こんなに得意なことがあるのに、なぜこれができないのか」という、自分の中の矛盾に傷つくということがギフテッドの子どもに特有の苦しさといえます。
周囲の人から見ると十分できているように見えても、本人にとっては自分の中の落差が日々の苦痛の源になっているのです。
「個性で片付ける」ことの問題点
「この子はこういう子だから」
「この子らしさ」
このような言葉が使われるとき、そこには善意があることが多いと思います。
無理に変えようとしない。
ありのままを受け入れる。
それは大切な姿勢です。
ただし、それがある意味、放置した状態のようになってしまっていることがあるということも否定できません。
親御さんや学校が子どもの凸凹を「個性」として受け止めるだけで止まってしまうと、具体的な支援や配慮が生まれにくくなります。
「この子はそういう子だから仕方ない」という考え方の問題は、子どもの困りごとを見えなくすることなのです。
また、問題となりやすいのが、「できるはずなのに」という言葉です。
善意から出た言葉であっても、ギフテッドの子どもにとって「できるはず」という期待は、できなかったときの自己評価のダメージを大きくします。
失敗体験が積み重なるにつれ、「どうせやっても無駄」「また失敗する」という回避的な姿勢が育ちやすくなる場合もあります。
そうやって、支援が遅れることで「失敗体験」が積み重なり、自己肯定感が削られ続けるということが起きます。
知能が高い子どもほど、その積み重ねを深く、鮮明に記憶しています。
特性として理解するために
「個性」ではなく「特性」として理解する違いはどこにあるのでしょうか。
個性は「その子らしさ」として、そのままにしておくもの、特性は「その子の脳や神経の働き方のパターン」として、理解して、付き合い方を考えるものだと思っています。
「変えなくていい」という点では同じでも、特性として捉えることで、「では何が必要か」という支援の観点に近づくという点が重要です。
苦手なことを「克服すべきもの」として子どもに向き合うのか、「配慮が必要なもの」として環境を整えるのか。
この視点の違いが、子どもの日常生活や学校生活の安心感に直結します。
また、ギフテッドの子どもの中には、高い知的能力と発達障害の特性を併せ持つ、いわゆる「2E(Twice-Exceptional)」のケースもあります。
ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)との併存が見られる場合、知能の高さが発達障害の特性を目立ちにくくさせ、支援の開始が遅れることがあります。
「賢いから大丈夫」という判断が、もっとも危うい場面の1つなのです。
凸凹は子どもの「生きづらさ」の可能性も
現場で子どもたちと向き合っていると、大人のたった一つの視点の変化が、その子の表情を静かに変えていく瞬間に、何度も立ち会ってきました。
「わかってもらえた」という感覚は、どんな言葉よりも子どもを支えてくれますし、親御さんとしても「この子の苦しさは、知能の凸凹という特性から来ている」「この場面はこの子には負荷がかかる」という視点で理解すると、子どもへの関わり方は変わると思います。
次回以降の記事では、ギフテッドの子どもに見られやすい知能の特徴のパターンを4つ取り上げ、それぞれの日常の姿と支援のポイントを解説します。お子さんの検査結果を照らし合わせながら、読んでいただければと思います。
参考文献
- Flanagan, D. P., & Kaufman, A. S. (2004) Essentials of WISC-IV Assessment. John Wiley & Sons.
- Gilman, B. J., Peters, D. B., Silverman, L. K., Lovecky, D. V., Kearney, K., Rogers, K. B., Amend, E. R., & Rimm, S. B. (2026) Use of the WISC-V for gifted and twice exceptional identification: Strength-based indexes address discrepant scoring and uninterpretable Full Scale IQs. SAGE Open, 16(1).
- National Association for Gifted Children (2018) Use of the WISC-V for Gifted and Twice Exceptional Identification (Position Statement, Approved August 2018).

