ギフテッドの定義とはー世界の歴史と日本の制度の違いも詳しく解説
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ギフテッドの定義とはー世界の歴史と日本の制度の違いも詳しく解説

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「ギフテッド」という言葉。耳にしたことがあっても、実際にどう定義され、世界でどう扱われ、日本でいまどう動いているのかをまとめて知る機会は、意外と少ないのではないでしょうか。

この記事では、国際的な定義の変遷、ギフテッド教育の主要6地域の制度、そして2021年以降に動き始めた日本のギフテッド教育の現状を整理しながら、ギフテッドの定義や概念について詳しく解説したいと思います。

ギフテッドとは?結局定義は何?

ギフテッドとは何か、ギフテッド教育とはどういうものか、まだまだわかりにくく感じられる方も多いと思います。

その理由のひとつは、人や地域によって「ギフテッド」の定義がばらばらだからです。

例えば、IQだけを基準にする人もいれば、創造性の高さや感受性の豊さを重視する場合もあります。

研究者の世界では、この50年のあいだにより多次元で捉えるという方向へ大きく舵が切られてきました。ここではその潮流を5つのモデルで整理します。

Marland Report(1972)―多次元定義の出発点

米国連邦教育局のMarland Report(1972)は、ギフテッドを次の6領域で顕著な能力を示す児童生徒と定めました。

  • 一般的な知的能力
  • 特定の学業的適性
  • 創造的・生産的思考
  • リーダーシップ
  • 視覚/舞台芸術
  • 心理運動能力 ※ 1978年の連邦法改訂では連邦の公式定義から削除されました。これは芸術分野に統合されたと解釈されています。

それまで主流だった「IQ130以上」という単一の基準から、多面的な定義へと移行した国際的な転換点といえます。

「3つの輪」モデルーレンズーリ博士

米コネチカット大学のJoseph Renzulli(ジョセフ・レンズーリ)が1978年に提唱し、2005年に改訂したThree-Ring Conception(「3つの輪」モデル)は、ギフテッドの行動を「平均以上の能力」「課題への執着(task commitment)」「創造性」の「3つの輪」の重なりとして説明しています。

能力の高さだけでなく、「のめり込む力」や「新しい発想」があってはじめて、ギフテッドな成果が生まれる、という視点です。

「適性」よりも「才能」

カナダのFrançoys Gagnéが提唱したDMGT(Differentiated Model of Giftedness and Talent)は、ギフテッドを「適性(Gifts)」と「才能(Talents)」に分けて考えます。

生まれつきの適性(知的・創造・社会情動・感覚運動)は、家庭や学校という環境的な要因と、何かに取り組む動機や自己管理といった個人の心理的・内的な要因、そして機会や偶然を通して出てきた行動の結果(Talent)へ発達する、ひとつのプロセスで捉えたのがこのモデルです。

「生まれつきの適性があっても、環境と支援がなければ才能にはならない」という前提を明確にした点が画期的でしたしその通りだと思います。

Sternberg WICS―「成功知能」理論

Robert J. Sternberg(ロバート・J・スタンバーグ)は、アメリカの認知心理学者・教育心理学者です。米国心理学会(APA)会長も務めた、20世紀後半から21世紀にかけての知能研究を代表する人物の一人です。

彼は、1996年に「成功知能」の理論を提唱しました。「自分にとっての成功を、自分の文化や状況のなかで達成する能力」のことで、

  • 分析的知能(考える力)
  • 創造的知能(生み出す力)
  • 実践的知能(現場で使う力)

の3つをバランスよく発揮することを重視しています。

2003年に、この3つに「知恵(Wisdom)」を加えて発表されたのが 「WICS 」モデルです。

WICS は Wisdom、Intelligence、Creativity、Synthesized(統合された)の頭文字で、知能や創造性を「共通善」のために使う姿勢まで含めた、ギフテッドの4つの構成要素を示しています。

知能や創造性があっても、それを個人の利益や短期的成果だけに向けるのではなく、他者や社会全体の利害と長期的な視点でバランスさせて発揮できて初めて、真のギフテッドと呼べる、というのが彼の主張です。

WICS モデルは、「IQが高い=ギフテッド」という単純な理解を打ち破った点が画期的でした。

学校の成績や標準テストでは測れない創造性、実生活で発揮される実践的知能、そして自分の力を社会にどう還元するかを考える知恵など、すべてを含めてギフテッドを捉え直す視点です。

「学校では成績が良いのに社会に出ると力を発揮できない人」「成績は普通だがビジネスで大成する人」といった現象が、IQ単独では説明できないことを理論化したといえます。

一方で、創造性や知恵を客観的に測定することの難しさ、「共通善」の定義が文化に依存する点など、理論の運用上の課題も指摘されています。それでも、「知能は何のためのものか」という問いは、現代のギフテッド教育に強い影響を与え続けているでしょう。

現代の主流は「2E」と「ニューロダイバーシティ(Neurodiversity)」

2010年代以降、ギフテッド研究の焦点は「高い能力を持つ子」から「高い能力と発達特性/障害を併せ持つ子(2E:Twice-Exceptional)」へと大きく広がりました。

ASD・ADHD・SLDなどの特性と、高い知的能力を同時に持つ子どもたちが、従来の制度では「どちらか一方」の視点でしか見られず、支援から漏れてきたためです。

Reis・Baum・Burke(2014)はGifted Child Quarterly誌で、2Eの操作的定義を提示し、国際的な議論の起点になりました。

同時に、「ニューロダイバーシティ(neurodiversity:脳の多様性)」という考え方が広まり、ギフテッドを「能力のピラミッドの頂点」ではなく「人の認知スタイルの多様性のひとつ」として位置づけ直す動きが起きています。

5つのモデルをつなぐ視点

以上の5つのモデルの流れは、「ギフテッドは何か」の答えを、個人の能力の高さから、環境との相互作用、さらに多様性の一つの表れへと、段階的に拡張してきた歴史と読めるかもしれません。

世界の潮流―主要6地域の動き

定義の整理ができたので、次は「世界でどう実装されているか」をご紹介したいと思います。

以下では、ギフテッド教育を語るときに外せない主要6地域を取り上げます。制度の成り立ちも、いま直面している課題も、それぞれまったく違います。

米国―Javits法とTalent Searchモデル

米国は連邦レベルの法律(Jacob K. Javits Gifted and Talented Students Education Act、1988年制定/ESSA 2015で存続)を軸に、州ごとの制度と大学・研究機関の厚みが組み合わさっています。

NAGC(National Association for Gifted Children)がプログラム標準を策定し、2019年に改訂されたスタンダードが広く参照されています。

ジョンズ・ホプキンス大学CTYなどが開発した「Talent Search」モデル(中学段階でSAT/ACTを実施し、上位層に夏期プログラムを提供)は、世界中に輸出されました。

韓国―英才教育振興法の三層構造

韓国は2000年に「英才教育振興法」を制定し、翌2002年の施行令とあわせて、法的な基盤を整えた国です。

目的条項には「個々人の自己実現と社会・国家発展への寄与のため、才能ある者の能力・適性に応じた教育を提供する」と明記されています。

運用上は、小中段階の「英才学級」、地域の「英才教育院」、高校段階の「英才学校(韓国科学英才学校など)」という三層構造です。

シンガポール―2024年、GEPからHALへ

シンガポールは1984年から続くGifted Education Programme(GEP)で知られていました。

小3全員を対象にスクリーニングを行い、上位約1%を選抜してきたこのモデルを、2024年8月に政府が大きく転換を発表しました。2024年入学の小学1年生(P1コホート)から段階的に適用が始まり、全小学校で高能力児童(Higher-Ability Learners、約10%)を対象とした校内プログラムに切り替わります。

学校間の転校を伴わず、所属校でのサービスに切り替わる点が特徴です。

欧州―ECHAを軸にしたネットワーク

欧州では1987年設立(初回学術会議は1988年)のECHA(European Council for High Ability)が、研究・教員研修・学術誌(High Ability Studies)の中核を担っています。

ドイツはミュンスター/オスナブリュック/ナイメーヘン連携のICBFや、民間財団Karg-Stiftungを拠点に整備が進み、オランダはRadboud大学CBOを中心にECHA Diploma教員研修が学校現場へ浸透しました。

北欧諸国は平等主義を背景に長らく才能教育に慎重でしたが、2010年代以降、スウェーデンの高校段階での「Spetsutbildning(エリート教育)」など制度化が進んでいます。

イスラエル―教育省内にギフテッド局

イスラエルは、1970年代から教育省内に「ギフテッド・傑出学生局(Division for Gifted and Outstanding Students)」を置く数少ない国です。

上位1%を「ギフテッド」、次の4%を「エクセレント」と定義し、放課後プログラム、週1日プログラム、校内特別学級の3層で支援します。ユダヤ系・アラブ系双方の児童をカバーする国家制度である点が、国際的にも稀有な特徴です。

豪州NSW―4領域の「High Potential」

豪州NSW州は2019年にHigh Potential and Gifted Education(HPGE)Policyを発表し、2021年1月から全公立校で適用しています。

旧2004 Gifted Education Policyを置き換え、「知的」「創造」「社会情動」「身体」の4領域で潜在能力を捉え直したのが大きな転換点です。

エビデンスベース・差異化教授・全校実装を三本柱にしています。

日本の現状―2021年からの転換

日本は長らく、国としてのギフテッド教育に関する政策を持たない国でした。

国立大附属校・私立中高一貫のエンリッチメント、JSTのスーパーサイエンスハイスクール(SSH、2002~)、グローバルサイエンスキャンパス(GSC、2014~)など、科学領域を中心とした「才能支援」はあったものの、義務教育段階での体系的な制度はありませんでした。その流れが大きく変わったのが2021年です。

2021年有識者会議と2022年の審議のまとめ

2021年6月、文部科学省は「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」(座長:岩永雅也 放送大学長)を設置しました。

2021年12月17日に『論点整理』が公表され、翌 2022年9月26日には最終的な『審議のまとめ』が公表されました。これが現在の日本政策の出発点となっています。

論点整理の柱は5つ。

  1. 多様な学びの場の整備
  2. 教員研修の充実
  3. 相談支援体制の構築
  4. 好事例の収集と発信
  5. 研究者・当事者との協働

重要なのは、数値的な識別基準を設けず、「困難さと才能の両面を包摂する」立場を明確にしたことです。

推進事業(2023年度~)と採択団体

2023年度から始まった「特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業」は、以下の3つの類型で実証研究を進めています。

類型Ⅰ:学校連携型学習・支援プログラム(在籍校との連携ベース)
類型Ⅱ:地域連携型の相談支援体制(自治体・専門機関と連動)
類型Ⅲ:全国規模の相談支援体制(オンライン・広域展開)

2023年度は6団体、2024年度は実証研究を約6,700万円規模で継続、2025年4月には愛媛大学(2件採択、学校連携型・全国規模型)ほか計4団体が新規採択されました。なお、SEISAアカデミーは2023・2024年度に採択され、2025年度で実証研究を終了しています。

日本ギフテッド・2E学会の設立(2023)

2023年12月に設立準備委員会が発足し、2024年12月1日には高知大学でキックオフ大会が開催されました(大会長:是永かな子 高知大学)。学会誌『ギフテッド・2E教育研究』第1巻も刊行されています。

それ以前から関西大学(松村暢隆)、お茶の水女子大学、横浜国立大学などに研究拠点があり、日本特殊教育学会・日本LD学会・日本教育心理学会・日本発達心理学会でも関連発表が増えてきていました。

学会設立は、これらの研究者コミュニティが接続された節目と位置づけられます。

用語をめぐる日本独自の考え

日本の政策には、世界と比べて際立つ特徴がひとつあります。

文部科学省の公式文書が「ギフテッド」という語を採用せず、「特定分野に特異な才能のある児童生徒」と表現している点です。

これは「才能」と「困難」の両面を含める方針を言葉のうえで担保し、エリート選抜のイメージを避けるための戦略的な選択とされています。

用語の使い分けに注意

行政は「特定分野に特異な才能のある児童生徒」、学会や当事者団体・メディアは「ギフテッド」「2E」を使い分けています。学校や自治体と話すときは、どちらの用語で話しているかを意識すると、議論が噛み合いやすくなります。

定義と潮流、日本の取り組みを振り返ると

ここまで、定義に関する5つのモデル、世界の6地域、日本の3つの動きを見てきました。

ギフテッドの定義は「多様性」の方向へ広がり続けており、地域・国ごとに制度も多様化しています。ただし、それぞれの文化と教育システムに応じて最適化された例は、まだ多いとはいえないのが現状です。

2021年の有識者会議から始まった日本の動きは、エリート選抜を回避しつつ、「困難と才能の両面」を包摂するという、国際的にも独自の路線を選択しています。

そもそもギフテッド教育というテーマ自体、「何を測るか」「誰を対象にするか」「どう支援するか」をめぐって、世界各地で異なる答えが試され続けている領域です。

これから学校・専門家・ご家族のあいだで「わが子をどう捉え、どう支えるか」を話し合う場面で、この記事がそのヒントの一つになれば幸いです。

参考文献・情報源
  • Marland, S. P. (1972) Education of the Gifted and Talented: Report to the Congress of the United States. U.S. Commissioner of Education. files.eric.ed.gov/ED056243
  • Renzulli, J. S. (2005) The three-ring conception of giftedness. In Conceptions of Giftedness (2nd ed.), Cambridge University Press.
  • Gagné, F. (2004) Transforming gifts into talents: The DMGT as a developmental theory. High Ability Studies, 15(2). doi:10.1080/1359813042000314682
  • Sternberg, R. J. (2005) WICS: A Model of Giftedness in Leadership. Roeper Review, 28(1). doi:10.1080/02783190509554308
  • Reis, S. M., Baum, S. M., & Burke, E. (2014) An Operational Definition of Twice-Exceptional Learners. Gifted Child Quarterly, 58(3). doi:10.1177/0016986214534976
  • OECD (2023) Equity and Inclusion in Education: Finding Strength Through Diversity. oecd-ilibrary.org
  • 文部科学省(2022)「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議 論点整理」mext.go.jp
  • 文部科学省「特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業」mext.go.jp/169
  • NAGC (National Association for Gifted Children) 公式サイト nagc.org
  • ECHA (European Council for High Ability) 公式サイト echa-site.eu
  • Ministry of Education Singapore (2024) Parliamentary Reply on Gifted Education Programme. moe.gov.sg
  • NSW Department of Education, High Potential and Gifted Education Policy. education.nsw.gov.au
  • Park, K. (2008) Gifted Education in Korea. ICME-11 Proceedings, Hongik University. matrix.skku.ac.kr
  • David, H. (2023) The failure of gifted education in Israel. Journal of Gifted Education and Creativity, 10(1). dergipark.org.tr
  • 松村暢隆(2021)『才能教育・2E教育概論―ギフテッドの発達多様性を活かす』東信堂
  • 日本ギフテッド・2E学会(2025)『ギフテッド・2E教育研究』第1巻
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