【専門家が解説】IQが高いのに生きづらい?ギフテッドの子どもとWISCの検査結果

「知的には高いから問題ない」
「IQが高いんだから、きっと大丈夫」
そう言われながら、不登校や強い自己否定に苦しむ子どもたちが、臨床の現場には少なくありません。
言葉は豊かで、大人顔負けの議論ができる。難しい本を好んで読み、宇宙や哲学の話を目を輝かせながらする。
一見すると、何も困っていないように見える子どもが、実は学校に行けていなかったり、毎晩泣いていたり、「自分はおかしい」と一人感じていたりするケースは、決して珍しくありません。
誰かに相談しても、『知的に高いから大丈夫』と言われることがとても多いのです。
この記事では、ギフテッドの知能の凸凹やケース別の生きづらさをご紹介しながら、知能検査の結果の捉え方について解説します。
この記事を書いた専門家

日塔 千裕 ひとう ちひろ
公認心理師・臨床心理士
発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。
「ギフテッド=高IQ」は思い込み?ギフテッドの知能の特徴
| 〔ギフテッドの定義〕 この記事では、ギフテッドを「知能・学習能力・創造性・興味関心の深さなどにおいて、特定または複数の分野で同年齢の集団と比べて突出した能力を示す状態」として使用します。なお、文部科学省の有識者会議(2023年)では「ギフテッド」という用語は使用されておらず、「特定分野に特異な才能のある児童生徒」という表現が使われています。「ギフテッド」という言葉が指す対象は場面や使用する人によって異なるため、この記事では親御さんにとってなじみやすい「ギフテッド」という言葉を使いながら解説を進めます。 |
「ギフテッド」という言葉を聞いたとき、多くの方が思い浮かべるのは「IQが高い子」「勉強ができる子」「特別な才能を持つ子」といったイメージではないでしょうか。
“ギフテッド”の定義の歴史
ギフテッドという概念は、もともとアメリカの教育政策のなかで整備されてきました。
1972年に連邦政府が初めてギフテッドを教育上の概念として公式に位置づけて以降、長らくIQの数値が基準となっています。
そうした歴史的な経緯が、今も「ギフテッド=高IQ」という印象を根強くしている理由の一つでしょう。
ただし、IQの数値基準は世界的に統一されているわけではなく、国や機関によってさまざまです。
現在、アメリカの全米ギフテッド協会(NAGC)はギフテッドを「一つ以上の領域において、同年齢の集団と比較して顕著に高い能力を示す人」と定義しています。
学業成績やIQだけでなく、創造性・リーダーシップ・芸術的能力なども含む、より広い概念として捉えられています。
日本における”ギフテッド”とは?
日本では、ギフテッドを「特定分野に特異な才能のある児童生徒」として位置づけていて、「ギフテッド」という用語をあえて使用しないことを明示しています。(文部科学省:2023年の有識者会議の審議まとめ)
この背景には、「ギフテッド」という言葉が、突出した才能全般を指す場合もあれば、学習上・生活上の困難を併せ持つ子どもに限定して使われる場合もあるなど、イメージが統一されていないことがあります。
確かに、「ギフテッド=IQが高い子のこと」という認識が先行すると、子どもが抱える困りごとの多くが見えにくくなってしまう危険性があります。
WISCの限界?IQと検査結果
知能検査(WISC-Vなど)を受けると、「全検査IQ(FSIQ)」という数値が出ます。
これがいわゆる「IQ」として親御さんに伝えられることが多い数字です。
ただ、この数字には大切な前提があります。
全検査IQ(FSIQ)は、複数の異なる知的能力を測った結果を「一つの平均値」としてまとめたものだということです。
たとえば、言葉で考える力が非常に高く(130)、情報を素早く処理する力が平均的(100)だった場合、全検査IQ(FSIQ)は115前後になります。
つまり全検査IQ とは、得意な力と苦手な力をならした「平均の数字」にすぎません。その一つの数字の中に、大きく異なる複数の能力が混在していることがあるのです。
ギフテッドの子どもに多く見られるのが、この得意な力と苦手な力の落差が非常に大きい知能の特徴です。
同年齢の子どもと比べても際立って大きいこの凸凹が、「IQが高いのに生きづらい」という状況を生み出す理由のひとつです。
「うちの子はIQが高いと言われたのに、なぜこんなに困っているの?」という問いへの答えは、全検査IQという一つの数字の中に隠れた、この知能の凸凹にあることが多いのです。
なお、得意と苦手の落差が小さく、全体的に知的水準が高い場合でも、生きづらさを抱える子どもは少なくありません。
- 授業が退屈でたまらない
- 話が合う友達がなかなかできない
- 集団のペースに合わせることが消耗する
こうした困りごとは、”知能の凸凹”とは別の理由があります。
「うちの子は凸凹がないと言われたけど…」という親御さんも、以下で詳しくご紹介しているので、ぜひ読み進めてみてください。
ギフテッドの賢さが裏目に出るとき
ギフテッドの子どもの生きづらさには、大きく分けて3つのケースがあります。
- 知能の凸凹から来るケース(先にご紹介したケースです)
- 感じる・考える・反応する強度が通常より高い特性(「OE」)から来るケース
- 知的水準が全体的に高いことそのものから来るケース
です。
どちらのケースにも共通して見られるのが、「賢さが裏目に出る」ことによる苦しさです。
1. 感じる・考える・反応する強度が通常より高い特性
ここで、ギフテッドの子どもの生きづらさを語るうえで知っておきたい、「過度激動性(Overexcitability)」という概念をご紹介します。
これはポーランドの精神科医・心理学者Kazimierz Dąbrowski (1964)が提唱した概念で、ギフテッドの人に見られやすい傾向として研究者の間で注目されてきた「感じる・考える・反応する強度が通常より高い状態」を指します。
- 知的な刺激へを強く求める
- 感情の振れ幅が大きい
- 身体感覚や音・光などへの過敏さ
- 想像力が止まらない
などです。これは、感性の豊かさでもある一方で、ギフテッドの子どもの日常生活を消耗させる理由の一つです。
2. 知的水準が全体的に高いことそのものから来るケース
ギフテッドの子どもの悩みで最も多いのは孤立感です。
授業の内容がすでにわかっていて退屈でたまらない、話が合う友達がなかなかできないなど、知能の高さゆえに学校生活などで知らず知らずのうちに孤立を深めている場合があります。
- 授業中に考えすぎて疲弊する
- 友達の何気ない一言を何日も引きずる
- 給食の匂いや体育館の音がつらくて学校にいられない
このような困りごとを日常的に抱えているのに、表面に出にくい分、「何も問題ない子」として見過ごされやすいのです。
さらに、問題を複雑にするのが、周囲からの無自覚なプレッシャーです。
「頭がいいんだから、それくらいできるでしょ」
「あなたなら大丈夫」
「もったいないな、もっとがんばれば」
高い認知能力を持つ子どもは、自分への期待と現実のギャップを鮮明に認識できてしまうからこそ、「できない自分」を隠そうとして頑張りすぎたり、できなかった場合の自分に対する評価のダメージが大きくなります。
そして、孤立感をより深めてしまうことにつながります。
「みんなが平気なことが自分には耐えられない」
「こんなに考えてしまうのは自分だけだ」
「頭がいいと言われるのに、なんでこんなことができないんだろう」
こうした感覚が、子どもの心に深く刻まれて、自己肯定感を長期にわたって傷つけていってしまう可能性もあります。
親がまず知っておきたいこと:知能検査の意味
「ギフテッドである」ということは、「すごい才能を持った特別な子」という意味ではありません。「ギフテッドである」ということは、一つの特性です。
特性という言葉には、「その子の脳や神経の働き方のパターン」というニュアンスがあります。才能は磨くものですが、特性は「理解して、付き合っていくもの」といえます。
では、なぜ知能検査を受けるのでしょうか。
それは「数字を知るため」ではなく、「わが子の頭の使い方の特徴を知るため」です。
どの力が高くてどこに負荷がかかりやすいか、何が得意で何に配慮が必要か。
IQという数字だけでなく、指標間のバランス、凸凹のパターン、どこに強みがあってどこに困難があるかなどの知能の特徴を読み解いて、「この子にはこんな支援が必要だ」「この子はこういう場面で力を発揮できる」という理解ができるとよいでしょう。
まとめ:「なぜ我が子は生きづらいのか」を知ることから
いかがでしたか?
「頭がいいのに、なぜ生きづらいのか」という質問に対する答えは、知能の凸凹、感情や感覚の強度、周囲との認識のズレ、自己評価の傷つきやすさなど複数の要因が重なり合っていることがお分かりいただけたかと思います。
「生きづらさ」も、もちろん1人ひとり異なります。
「この子が苦しいのは、意志が弱いからでも、甘えているからでも、育て方が悪かったからでもない。」と親御さんが理解するだけで、お子さんへの関わり方は変わりそうですね。
数字や検査結果に振り回されず、お子さんの知能の特徴を立体的に理解するための参考にしていただけたら幸いです。
参考文献
- U.S. Commissioner of Education (1972). Education of the Gifted and Talented: Report to the Congress of the United States by the U.S. Commissioner of Education. Washington, D.C.: U.S. Government Printing Office.(通称:Marland Report)
- National Association for Gifted Children (NAGC). What is Gifted?
- 文部科学省(2023).『特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議 審議のまとめ』
- Dabrowski, K. (1964). Positive Disintegration. Little, Brown.
- Webb, J.T., et al. (2005). Misdiagnosis and Dual Diagnoses of Gifted Children and Adults. Great Potential Press.
- 片桐正敏(編著)・小泉雅彦・日高茂暢・富永大悟・ギフテッド応援隊(著)『ギフテッドの個性を知り、伸ばす方法』小学館


