発達障害を持つ子どもの「脳の報酬系」を理解しよう!自己肯定感・自己効力感の育み方

発達障害を持つ子どもたちは、学びや日常生活の中でさまざまな課題に直面します。「脳の報酬系」を理解するは、発達障害を持つお子さんやグレーゾーンと言われるような子どもたちの自己肯定感や自己効力感を育む上でも重要なポイントとなります。

本記事では、脳の報酬系の基本と、それを踏まえた上で、子どもたちの自信ややる気を支える方法について解説したいと思います。

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自己肯定感と自己効力感に密接に関係している、脳の機能である「報酬系」と言う観点をまずご紹介します。

なぜなら、やる気とか、頑張れる力に密接に関わってくる部分が、この「脳の報酬系」なのです。

「脳の報酬系」というのは、私たちが楽しいことや嬉しいことを経験した時に「うれしい!」と感じさせる部分です。おいしいものを食べたり、ゲームで勝ったりすると、この報酬系が働いて、「またやりたい!」と思わせます。

これは脳が「ごほうび」をくれるようなもので、私たちを幸せに感じさせたり、何かを続けるモチベーションをくれたりします。報酬系が働くと、脳はドーパミンという特別な化学物質を出します。

ドーパミンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、私たちを良い気分にさせる役割があります。

このシステムがあるおかげで、私たちは新しいことを学ぶやる気を出したり、目標に向かって頑張ったりすることができます

ただし、この報酬系はバランスが大事です。

報酬系は、「強化学習」にも関わっており、人は報酬をもたらした行動を繰り返すことが学習されます。しかし、このシステムが過剰に活性化すると、薬物依存症やギャンブル依存症など、不健康な行動パターンを学習してしまう可能性があります。

適切に働くと私たちをポジティブに保ちますが、ゲームやインターネットなど、あまりにも強い報酬を繰り返し求めると、時に問題を引き起こすこともあるというわけです。

バランスが取れないと、本当に大切なことに集中するのが難しくなったり、物事の価値を正しく評価できなくなったりすることもあるでしょう。

要するに、脳の報酬系は私たちの日々の行動や幸福感に大きく影響を与える重要な部分で、健康的な生活や幸せを感じるためには、このシステムをいかに上手に使えるかが大切です。

報酬系について簡単に理解いただけたと思うので、次に発達障害を持つ子どもの場合について解説していきます。

発達障害には様々な種類がありますが、ADHD(注意欠如・多動性障害)や自閉症スペクトラム障害(ASD)などが含まれ、これらの障害を持つ子どもたちはこの脳の報酬系の機能に特性を持つことが示されています。

例えば、ADHDの子どもたちは、将来のより大きなご褒美(報酬)よりも、小さくても目の前にあるご褒美(報酬)を重視する傾向があります。

また、ASD(自閉症スペクトラム障害)の子どもたちは、社会的報酬(例:人からの賞賛)や物理的報酬(例:おもちゃ)への反応が大きく異なることがあります。例えば、多くの子どもたちがもらって嬉しいはずのおもちゃに全く興味を示さないのに、特定の植物の葉っぱには極度な興味をもつなどです。

社会的・物理的な報酬に対する興味が低い一方で、特定の興味や活動に対しては大変強いモチベーションを持つ傾向を示しています。

では、そもそもなぜこのような違いがあるのか。

より具体的な話になりますが、発達障害を持つ子どもたちの脳の報酬系が定型発達の子どもたちと異なる理由は、神経生物学的なメカニズムと脳内の化学物質の働きに関連しています。

ここでは、主にADHD(注意欠如・多動性障害)と自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもたちを例に、脳の報酬系の違いとその原因について解説します。


ADHDの子どもたちの報酬系の特徴は、ドーパミンという神経伝達物質の働きと密接に関連しています。ドーパミンは、報酬感、モチベーション、注意力の調整に重要な役割を果たします。

ADHDの子どもたちは、ドーパミンの再取り込みが活発であるために、ドーパミンの可用性(資源、情報が必要とされるときに利用可能である度合いや状態)が低下し、結果として報酬に対する反応性が低くなることが示されています。

ADHDの子どもたちは、長期的な報酬よりも短期的な報酬に強く動機づけられると先に説明しましたが、これは、彼らが即時の報酬によってドーパミンのレベルを素早く上げることを求めるためです。

そのため、将来の大きな報酬よりも、小さくても今すぐに得られる報酬を好むことにつながるのです。脳の中で、報酬を待つことの「コスト」を高く評価する、という反応が起こっているのです。


ASDの子どもたちでは、脳の特定の領域(例:扁桃体や前頭前野)の活動の違いにより、社会的な手がかりや報酬に対する認識と反応の違いにつながっていると言われています。

そのため、ASDの子どもたちは、一般的には報酬とは見なされない特定の刺激や活動から強い報酬感を得ることがあり、それぞれ異なる神経生物学的な処理によるものと考えられています。

ASDの場合、高い個人的関心を持つ刺激や、食べ物の画像への報酬系の反応が高まるという研究結果もあります​ (Cambridge University Press & Assessment)​。

このような特性を持つ子どもには、自己肯定感と自己効力感を育むための方法も少し工夫することが必要です。

以上の特性を踏まえて、発達障害の子どもが自己肯定感や自己効力感を感じられるようになるにはどうしたらいいのでしょうか。

特に発達障害のお子さんの場合は、前向きなフィードバックやご褒美は、行動のすぐに後に与える、興味や強みに基づいた活動を用意することもより有効です。

以下で、発達障害の中でも、先ほどのADHDとASDの特性を踏まえてそれぞれの場合に有用と考えられる対応を個別に見ていきましょう。


ADHDの子どもには、小さなタスクごとに「すぐに」前向きなフィードバックや報酬を提供することで、やる気を促進させることができます。

例えば、宿題を一つ終えるたびに小さな休憩や好きな活動を数分間許可するなどです。勉強時間を短いスパンで区切り、各セッションの終わりに小さな報酬を設定することも効果的です。

なお、このような短いスパンで達成可能な目標の設定が有用であることを示した研究として、バンデューラの「自己効力感理論」があります。

ADHDを持つ子どもたちは、短期間での成果(取り組んだことでいいことがある、と言う感覚)を実感できる活動によりモチベーションが上がるというわけです。


ASDの子どもに対しては、彼らの特定の興味や強みを教育活動に取り入れることが効果的です。

興味のあるテーマを通じて新しいスキルを学ぶことで、自己効力感を高め、学習に対する意欲を促します。

例えば、恐竜が好きな子には、恐竜に関する学習素材や活動を提供することで、学習への関心とモチベーションを高めることができます。

少し専門的な内容になりましたが、ご紹介したような神経生物学的な違いを理解することは、発達障害を持つ子どもたちの自己肯定感や自己効力感を支援し、学びや日々の生活における挑戦への取り組みを効果的にサポートするために重要です。

親御さんや教育関係者の方は、これらの違いを踏まえた上で、子どもたち一人ひとりのニーズに合わせたポジティブなフィードバックや適切な報酬システムの設計を心がけることが、子どもたちの成長と発達を促すポイントです。

子どもたちの自己肯定感と自己効力感を支えるために対応策を検討する場合、このような個別のニーズと特性を理解し、それに合わせた介入を行うヒントになれば幸いです。

才能発掘診断では、自己肯定感を含めた非認知能力を調べることができます。

参考文献

バンデューラ, A. (1997). “Self-efficacy: The exercise of control.” New York: Freeman.

Hattie, J., & Timperley, H. (2007). “The Power of Feedback.” Review of Educational Research, 77(1), 81-112.

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