イギリスのギフテッド教育|4か国の制度の違いと特徴を解説

「イギリスのギフテッド教育」とひと口に言っても、イングランド・ウェールズ・スコットランド・北アイルランドの4つの国で、制度も呼び方も少しずつ違うのをご存じでしょうか。国が一律に進めるというより、地域や学校がそれぞれのやり方で子どもを支えている。それがイギリスの実情です。
この記事では、イギリスでの「ギフテッド」の捉え方と、4か国それぞれの支援制度を整理してご紹介します。
実際の学校の取り組みについては、イギリスのギフテッド教育|学校の実例編で詳しく取り上げていますので、あわせてご覧ください。

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イギリスでは「ギフテッド」をどう捉えているのか
日本で「ギフテッド」というと、飛び抜けた知的能力や才能を持つ子どもを思い浮かべる方が多いかもしれません。アメリカの全米ギフテッド協会(NAGC)の説明では、「一つ以上の領域で、並外れた理解力や学習能力を示す人、あるいは上位10%以内の力を示す人」がギフテッドにあたります。数学や言語、音楽に限った話ではなく、絵画やダンス、スポーツ、体の動きの巧みさまで、対象となる領域はかなり幅広いものです。
では、イギリスではどうか。少し異なる特徴が見えてきます。
「ギフテッド」と「タレンテッド」を分けて考える
イングランド、ウェールズ、北アイルランドでは、「ギフテッド(gifted)」と「タレンテッド(talented)」という2つの言葉が使い分けられてきました。
ギフテッド(gifted)
国語や数学、理科のような教科で発揮される知的な才能のことです。
タレンテッド(talented)
美術や音楽、スポーツなど、芸術や身体表現の分野で光る才能を指します。
「勉強ができる子」だけでなく、「絵や運動で輝く子」も同じように支えていこうという姿勢が、この言葉の使い分けによく表れているのではないでしょうか。
スコットランドの「Highly Able」という考え方
スコットランドでよく使われるのは、「Highly Able(高い能力を持つ子)」という表現です。知的な力と芸術的な力を別々のものとして捉え、それぞれに合った方法で支えていく枠組みになっています。
4か国それぞれの支援制度と呼び方
日本の「個別の教育支援計画」にあたるものを、欧米ではよく「IEP(Individualized Education Program=個別教育計画)」と呼びます。イギリスでもIEPという言葉自体は使われているものの、正式な制度は国ごとに名前も仕組みも別々です。
| 国 | 個別支援の主な制度 | 才能のある子の呼び方 |
|---|---|---|
| イングランド | EHCP(Education, Health and Care Plan=教育・健康・ケア計画) | Gifted & Talented |
| ウェールズ | ALN(Additional Learning Needs=追加学習ニーズ)制度のもとでのIDP(Individual Development Plan=個別発達計画) | MAT(More Able and Talented) |
| スコットランド | CSP(Coordinated Support Plan=連携支援計画) | Highly Able |
| 北アイルランド | SENステートメント(Statement of Special Educational Needs=特別な教育的ニーズの記述書) | Gifted & Talented |
ギフテッド教育への力の入れ方にも、国によってずいぶん差があります。ここからは1か国ずつ、制度の中身と背景を見ていきましょう。
イングランド:国のプログラム終了後は、学校ごとの工夫へ
かつての全国プログラム「YG&T」
かつてイングランドには、「Young Gifted & Talented(YG&T)Program」という全国規模のギフテッド支援がありました。各学校がギフテッドの子を選び、政府の後押しを受けて、さまざまな学びの機会を用意する仕組みです。
どんな学びが用意されていたのか
学年の枠にとらわれず速いペースで進む「加速学習」、その道の専門家から直接学べる「マスタークラス」、ギフテッドの子向けの学習旅行や課外活動。内容はかなり充実していました。
2010年に終了した理由
ところが、「どの子をギフテッドとするか」の基準が学校によってまちまちで、支援の質にも差が出てしまったのです。こうした課題を受けてプログラムは2010年に終了し、それ以降、国全体で共通のギフテッド施策は行われていません。
いまイングランドで行われている支援
成績評価をより細かく
国のギフテッド施策がなくなっても、教育制度の見直しそのものは続いています。そのひとつが、16歳で受ける中等教育修了試験「GCSE」の評価方法の変更でした。成績が9段階で示されるようになったことで、上位層の力の差も細やかに見分けやすくなっています。
経済的に厳しい家庭の子を支える「Pupil Premium」
制度の仕組み
もうひとつ知っておきたいのが「Pupil Premium(ピューピル・プレミアム)」です。経済的に苦しい家庭の子どもが在籍する学校には国から資金が出て、課外活動や個別指導、メンタリング、先生の研修などに充てられるようになっています。対象の子どもは約230万人にのぼるそうです。
ギフテッドの子にとっての課題
とはいえ、これはギフテッドの子のためだけの制度ではありません。経済的な支援が必要な子ども全体が対象なので、才能のある子への手当てまでは十分に行き届いていないのが現状といえます。
支援の中心は各学校へ
全国共通の仕組みがないぶん、イングランドでは学校ごとに特色ある取り組みが生まれています。独自の個別計画をつくる学校、発達特性への支援と才能教育を両立させる学校など、そのかたちはさまざま。具体的な学校の様子は、イギリスのギフテッド教育|学校の実例編でご紹介しています。
ウェールズ:国を挙げたギフテッド支援が続いている
0歳から25歳まで続く個別計画「IDP」
ウェールズでは、発達特性などで学ぶことに困難のある子どもを「ALN(追加学習ニーズ)」という制度で支えています。その子のためにつくられるのが「IDP(個別発達計画)」です。
IDPの大きな特徴は、対象が0歳から25歳までと長いこと。在学中の学習支援にとどまらず、卒業後の進路やキャリアまで見通した計画になっており、研修の機会やキャリア目標についてのアドバイスも含まれます。
ギフテッドの子は「MAT」と呼ばれる
ウェールズでは、才能のある子を「MAT(More Able and Talented)」と呼んでいます。イングランドとの大きな違いは、国全体のギフテッド支援が今も続いている点にあります。
支援の柱「Seren Academy(セレン・アカデミー)」
代表的なのが、政府が運営する「Seren Academy」。GCSEで優秀な成績を収めた生徒などを対象に、専門家によるマスタークラス、名門大学の入試面接対策、個別指導、進路相談などを提供しています。
経済的な支援「PDG」とその課題
経済的に厳しい家庭の子を支える「PDG(Pupil Development Grant)」という制度もあります。保育園や通常の学校以外の学びの場に通うための支援、学費の補助などに使われ、毎年約10万人が対象です。
ただし、ウェールズ議会の委員会などからは、「本来支援が必要な子に十分届かず、学校全体の成績向上に使われがちだ」との指摘も出ています。
スコットランド:専門団体と学校が手を組んで支える
国の共通プログラムはなく、学校ごとに対応
スコットランドにも、イングランドと同じく、国全体で共通のギフテッド支援プログラムはありません。「Highly Able」の子どもたちへの関わり方は、それぞれの学校に委ねられています。
専門団体「SNAP」との連携
その代わりに存在感を持っているのが、「SNAP(Scottish Network for Able Pupils)」のようなギフテッド支援の専門団体です。多くの学校がこうした団体と連携し、知見を取り入れながら取り組みを進めています。国の制度がなくても、学校が孤立せずに支援を工夫できる。そんな土台がここにあるといえるでしょう。
北アイルランド:教育局(EA)と学校の二人三脚
支援の要となる「EA(教育局)」
北アイルランドでも、国全体で共通のギフテッド支援プログラムは設けられていません。中心的な役割を担うのは「EA(Education Authority=教育局)」で、発達特性などで特別な支援が必要な子どものために、専門のセラピストを学校へ派遣するといった支援を行っています。
学校ごとのエンリッチメント
各学校はEAと連携しつつ、SENステートメントの仕組みも生かして、ギフテッドの子向けの発展的な学び(エンリッチメント)をそれぞれ用意しているのです。校内で対応しきれない専門的な支援はEAへつなぐ、という役割分担もできています。
まとめ:イギリスの制度から日本が学べること
4か国の制度を比べてみると、国の仕組みの手厚さはまちまちです。それでも、「一人ひとりに合わせて支える」という考え方は共通していました。日本にとってのヒントを3つ挙げておきます。
才能を幅広く捉える
「ギフテッド」と「タレンテッド」の使い分けに表れているように、イギリスでは教科の成績だけが才能ではありません。絵を描くこと、体を動かすこと、表現すること。家庭でも、子どもの「好き」や「得意」を広い目で見てあげたいものです。
長い目で見た支援計画
ウェールズのIDPは、0歳から25歳までを見通して支援を組み立てます。学校が変わるたびに支援が途切れてしまう。日本でよく聞くそんな悩みに対して、ひとつの答えになる考え方ではないでしょうか。
基準と連携の大切さ
イングランドのYG&Tが終了した背景には、判定基準のばらつきがありました。一方で、スコットランドの専門団体や北アイルランドのEAのように、学校を外から支える仕組みが機能している例もあります。制度をつくることと同じくらい、それを支える基準や連携が大切だということがわかりますね。
日本でも、ギフテッドの子への支援や個別の教育支援計画は少しずつ広がりつつあります。とはいえ、仕組みが整うまでには、まだ時間がかかるかもしれません。その間も、子どもの一番近くにいる保護者の関わりが、何よりの支えになるはずです。
イギリスの学校が実際にどんな工夫をしているのかは、イギリスのギフテッド教育|学校の実例編で詳しくご紹介していますので合わせてご覧ください。


