「子どもの対人関係が心配だけど、家庭で何をしてあげればいいか分からない…」
そんな悩みを抱えている親御さんは少なくありません。療育や医療機関でもSST(ソーシャルスキルトレーニング)は受けられますが、家庭だからこそできる関わり方があります。
今回の記事では、子どもの個人SSTと成人の集団SSTを経験した臨床心理士が、専門的すぎない日常に寄り添ったSSTの取り入れ方をご紹介します。

執筆:いけや さき
公認心理師・臨床心理士
精神科病院、療育施設、心療内科・児童精神科クリニックなど主に医療と福祉領域にて心理士として従事。発達障害の子どもたちや保護者、女性のメンタルヘルス等のサポートを行う。
SSTは家庭でやった方がいいの?
SST(ソーシャルスキルトレーニング)は、あいさつやお願いの仕方、感情の伝え方など、日常生活で必要な対人スキルを練習する方法です。
詳しくは前回こちらの記事で解説しているので、まだ見ていない方は合わせて参考にしてみてください。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?子どもの対人関係を良好にする方法を心理士が解説
家庭でやるSSTにも意味がある
カウンセラーなどによるSSTも効果的ですが、家庭での関わりも同じくらい重要です。
毎日の生活の中でこそ、子どもは繰り返し練習でき、安心感の中で自分らしくソーシャルスキルを伸ばせます。
また、家庭で行うなら個別SST以上に子どもの特性や日常の困りごとに応じて、柔軟に内容をアレンジできるのです。
このような関わり方は、親だからこそできる支援でしょう。
小さなやりとりを繰り返すことで、子どもは「自分はできる」「受け入れてもらえている」という安心感を育んでいきます。
SSTを“特別な訓練”ではなく、“毎日の中にある関わり”として捉えることで、親御さんも無理なく自然に子どもの力を伸ばしていってくださいね。
家庭と専門家のSSTの違いとは
家庭でのSSTは、日常の中で自然に繰り返せることが大きな強みです。
一方、専門家のSSTは個別の課題に応じた計画的な支援が受けられます。
それぞれに役割があり、両方をうまく組み合わせることで、子どもにとってより豊かな学びと成長が期待できます。
専門家と実践したことを家庭で活かしたり、家庭で行ったことを専門家と共有することで相乗効果を高めていきましょう。
家庭でできるSSTの具体例
家庭でSSTを行うなら、ゲームや日常会話の中で楽しく行えるといいですね。
親御さんも無理のない範囲でやってみてください。
あいさつを練習しよう
「おはよう」「いってきます」などの基本的なあいさつは、SSTの第一歩です。親がまずお手本を見せてから、一緒に練習してみましょう。
また、あいさつのほかにも「ありがとう」「ごめんなさい」「貸して」「お願い」などにも応用できます。
あいさつ練習のポイントは次の通りです。
子どもがあいさつできたら「目を見てくれてうれしい」「声が聞き取りやすかった」など、よかったポイントを積極的に伝えましょう。
最初はルールをすべて守れなくても、できているところを伝えて改善ポイントを一緒に振り返りながらやってみてください。
順番を待つ練習をゲームで楽しく
順番を守るのが難しいときは、家族で順番ゲームをするのもおすすめです。
たとえば「じゃんけんで順番決めよう」「昨日は○○ちゃんが先だったから譲ろうね」と声をかけて、家族みんなで順番を待つ練習をしてもいいですね。
ゲームだけでなく、おふろやテレビのリモコンなど、家庭でも順番を守る場面でも活用できます。
相手に気持ちを伝えてみよう
自分の感情を言葉にすることも大切なスキルです。伝える感情はいいことばかりでなく、「嫌だ」「寂しい」「やめて」なども重要となります。
子どもは大人以上に自分の感情を言葉にするのが難しく、ほかの表現方法になってしまうことも多いです。
なかなか子どもが自分で言えないときは代弁しましょう。
伝えてくれた時は「今、悔しい気持ちなんだね」「楽しかったんだね、ママも楽しかったよ」と感情を共有しあっていることを伝えてみてください。
また、大人も言葉遣いに気を付けることで普段から子どもに見本を見せることもSSTの1つです。
相手の立場になって考えよう
相手の立場になって考える力も大切なスキルです。
絵本の登場人物やアニメのキャラクターを題材にして、「このときどんな気持ちだったかな?」と親子で考える時間を作ってみましょう。
問いかけるときは「この子、なんで泣いちゃったんだろう?」と聞いてみたり「○○だったから悲しかったのかもね」と一緒に推測してみてください。
この会話には正解を設けず、子どもの気づきを受け止めることを大事しましょう。会話を通じて想像力や共感力が自然と育まれ、対人関係の土台づくりにつながります。
家庭での声かけの工夫とポイント
家庭でSSTをやるなら、小さなことにも気づいてしっかり認めることが大切です。成功体験の積み重ねが、自信と安心感につながります。
たとえば「今、上手に言えてたね」「ありがとうって言われてママもうれしいよ」など、大げさにほめるのではなく落ち着いて伝えてみてください。
大げさにほめすぎると、子どもは「評価を求める子」になってしまいます。
褒めるよりも認めたり、一緒に考えたり、関心を示しながら関わっていきましょう。特になるべくできてほしい当たり前のことを大げさに褒めるのは危険です。
「ママに褒められるために○○をする」になってしまうと、少しでも褒められなくなったらやらない子になってしまいます。
親子で無理なくSSTを続けるためのヒント
家庭は本来、子どもにとって居心地いい場所です。SSTも勉強も無理やりやらせるのではなく、自らできるような工夫が必要となります。
しかし、家が居心地いい場であるべきなのは親御さんも一緒ですよね。互いにムリなく、SSTを続けるポイントを紹介します。
「毎日でなくてOK」の気持ちで
家庭でできるとしても、毎日頑張る必要はありません。
頑張り屋さんな親ほど、「ちゃんと続けなきゃ」と自分を追い込んでしまいがちです。本や教材を買い込んだり、周りの親御さんに聞いて一喜一憂する方も少なくありません。
完璧を求めすぎず、子どもに合わせて“できるときにできること”から始めましょう。親御さんの心の余裕が、子どもには安心感として伝わりますよ。
家庭に合った“わが家流SST”を
子どもの悩みや家庭の事情は人それぞれですので、ほかの家のマネをする必要はありません。
SSTにはさまざまな本や教材が販売されていますが、あくまでも参考程度にしましょう。
「本の通りにできなかった」「絵カードの答えと同じことが言えなかった」
親御さんが不安や焦りを抱えてしまっては、親子共に疲れ切ってしまいます。親子関係を壊さないためにも、無理のない範囲でわが家流のSSTをやってみてくださいね。
SSTはスモールステップで
家庭でのSSTは、特別なトレーニングではなく、日常の中で少しずつ積み重ねていくものです。
「今日はあいさつができた」「順番を待てた」「自分の気持ちを言葉にできた」
こうした小さな一歩が、子どもの対人スキルを育てていきます。
発達のペースは子どもによって異なります。
大切なのは、完璧を求めすぎず、「昨日よりちょっとできた」ことに気づき、親子で喜び合うこと。
失敗しても責めず、うまくいった経験を少しずつ積み重ねていくことで、子どもの自己肯定感も育っていきます。
焦らず、比べず、一歩ずつ。スモールステップを大事にすることが、家庭でのSSTを楽しむカギになります。
家庭のSSTの相談ならGifted Gazeへ
今回は家庭でできるSSTの紹介をしました。
家庭でSSTをやる場合のポイントは、子どもに合わせた方法を実践することです。療育や医療機関のアドバイスももらいながら、少しずつ取り組んでみましょう。
Gifted Gazeでは、小学生の子育て相談のプロである医師や心理士がオンラインで相談を承っています。子どものSSTにお悩みの保護者様は、ぜひお気軽にお問い合わせくださいね。