ギフテッドとマルチポテンシャライト「一つに絞れない」才能
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この記事でわかること

  • マルチポテンシャリティとは
  • ギフテッドとマルチポテンシャリティの関係
  • マルチポテンシャライトの3つの超能力
  • マルチポテンシャライトが抱える苦しさ

目次

  1. マルチポテンシャリティとは
  2. ギフテッドとマルチポテンシャリティの関係
  3. マルチポテンシャライトの3つの超能力
  4. マルチポテンシャライトが抱える苦しさ
  5. 「何になりたいの?」という問いの罪
  6. 子どもがマルチポテンシャライトかどうかを見分けるサイン
  7. 親・教師ができる7つのサポート
  8. マルチポテンシャライトとして生きた人たち

「うちの子、ギフテッドかも」と感じている方へ。
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ギフテッドの子どもとの関わり方

「将来何になりたい?」この質問を、あなたのお子さんに聞いたことはありますか。

天文学者になりたい、でも作曲もしたい、プログラミングも面白い、歴史の研究もしてみたい。そんな答えが返ってきたとき、どう感じましたか。

「絞り込めていない」「一つに集中してほしい」と思ったでしょうか。あるいは、子ども自身が「自分は何がしたいのかわからない」「興味が多すぎて決められない」と悩んでいることはないでしょうか。

このように、複数の分野に高い能力と深い興味を同時に持つことは、ギフテッド研究では「マルチポテンシャリティ(multipotentiality)」と呼ばれ、ギフテッドの子どもに多く見られる特性として研究されてきました。そして近年、作家・講演家のエミリー・ワプニック氏が2015年のTEDトークで世に広めた「マルチポテンシャライト(multipotentialite)」という言葉が、大きな反響を呼んでいます。

「一つのことに特化できない」のは欠点ではなく、むしろ現代社会でこそ輝く強みであるという視点は、多くのギフテッドの子どもたちと、その保護者を救う可能性を秘めています。

マルチポテンシャリティとは

まずは言葉の意味から押さえておきましょう。

マルチポテンシャリティ(multipotentiality)とは、1989年にギフテッド教育研究者のベルガー(Berger)が提唱した教育心理学の概念で、「複数の異なる分野において優れた能力を持ち、それぞれで成功できる可能性があること」を指します。

単に「いろんなことが好き」という状態ではなく、複数の分野において実際に高い能力や深い興味を持ち、どの道に進んでも高い水準で活躍できるという状態です。

これをわかりやすく現代語に訳したのが、エミリー・ワプニック氏が提唱した「マルチポテンシャライト」という言葉です。ワプニック氏自身、高校時代から英語・数学・アート・ウェブデザイン・ギター演奏とさまざまな分野に深く関わり、大学では音楽・映像制作・法律を学んだ経歴を持ちます。「自分は何になりたいのかわからない」という感覚が長年続いたと言います。しかしそれは欠点ではなく、「一つのことに特化するよりも、多様な分野を渡り歩くことで新しい価値を生む人間」だったのです。

なお、同じような概念を指す言葉は時代によってさまざまです。

  • ポリマス(polymath):複数の分野に卓越した知識と業績を持つ人
  • ルネサンス人(Renaissance person):ルネサンス期の「万能の人」の理想像
  • スキャナー(scanner):作家バーバラ・シャーが命名した、多くの興味を持ち次々と探索する人
  • ジェネラリスト(generalist):特定分野の専門家に対し、幅広い知識と能力を持つ人

どれも一つに絞れないことへのネガティブな視点ではなく、それ自体が一つのあり方・強みであるという視点を持っています。

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ギフテッドとマルチポテンシャリティの関係

「ギフテッド=一つの分野に特化」というイメージ、実は必ずしもそうではありません。

マルチポテンシャリティは、ギフテッドの子どもに特に多く見られる特性です。

理由の一つは、ギフテッドの高い学習能力と知的好奇心の広さにあるでしょう。新しい分野に触れたとき、通常より速いスピードで習得し、深い理解に達することができる。だからこそ、一つの分野を極めるよりも前に、次の分野への好奇心が芽生えてしまうのです。

もう一つは、過度激動性(OE)の知性OEや想像性OEとの関連です。知性OEを持つ子どもは「探究したい」という衝動が非常に強く、一つの問いが別の問いを呼び、どんどん異なる分野へと興味が広がっていきます。

研究者のアクター、ルービンスキー、ベンボウ(1996年)による知的ギフテッド学生1000人以上を対象とした研究では、ギフテッドの多くが複数の分野において突出した能力と興味を示したことが確認されています。

一方で、注意すべき点も見通せません。研究者のミルグラムとホン(1993年)は、「一見マルチポテンシャルに見える状態が、実は能力測定の天井効果(すべての分野でテストの最高値をとってしまうこと)による見かけ上の現象である場合もある」と指摘しています。本当の意味でのマルチポテンシャリティを識別するためには、「自由な時間に自発的に選ぶ活動」を観察することが有効とされています。

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マルチポテンシャライトの3つの超能力

「強み」というと大げさに聞こえますが、実際には日常の中で自然に発揮されています。

エミリー・ワプニック氏は、マルチポテンシャライトには3つの「超能力(superpower)」があると述べています。これはギフテッドの研究とも高い整合性を持っています。

超能力1)アイデアの統合

異なる分野の知識を組み合わせ、その「交差点」に新しいアイデアを生み出す力。イノベーションは、多くの場合、すでに存在する2つ以上の分野の交差点から生まれます。一つの分野の専門家では思いつかない「つなぎ方」を、マルチポテンシャライトは自然に行います。異分野の知識が多いほど、かけ算の組み合わせが増え、ユニークなアイデアが生まれやすくなるのです。

超能力2)高速学習

興味を持ったことに全力で没入し、驚くほど速いスピードで習得する力です。マルチポテンシャライトは、これまでの人生で「初心者になること」を何度も経験してきています。新しいことへの恐れが少なく、「また一から始めること」に慣れているのです。加えて、ある分野で身につけたスキルが別の分野でも活かせることを経験的に知っているため、完全にゼロから始めることが少ない。ギフテッドの高い学習能力と組み合わさることで、非常に強力な能力となります。

超能力3)適応力

状況に応じてさまざまな役割や形にたちまち変化できる力です。変化のスピードが速く、予測不可能な現代社会において、多様な経験と知識を持ち、柔軟に形を変えられる人間の価値はかつてないほど高いのです。

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マルチポテンシャライトが抱える苦しさ

ここが一番、親として知っておきたいところかもしれません。

「一つに絞れない自分はだめなのか」という罪悪感

「好きなことを一つ見つけて、それを極めなさい」。これが、現代社会の多くの場所で伝えられるメッセージです。学校でも、進路指導でも、家庭でも。マルチポテンシャライトは、このメッセージを繰り返し受け取るうちに、「一つに絞れない自分はどこかおかしいのだ」という罪悪感を内面化していきます。特にギフテッドの子どもは高い感受性を持つため、この罪悪感が深く刻まれやすいです。

「どれかを選ぶ=他を捨てる」という喪失感

複数のことが本当に好きで、すべてに能力もある。その子に「一つを選びなさい」と言うことは、残りの可能性をすべて閉じることを意味します。この状態を「過剰選択症候群(over-choice syndrome)」と呼びます。選択肢があまりにも多く、どれを選んでも”捨てたもの”への後悔が生まれてしまう状態です。

「飽きた自分」への自己嫌悪

一つのことに深くのめり込み、ある水準まで達したとき、突然興味が薄れてしまう。これもマルチポテンシャライトに多いパターンです。「また飽きた。自分は続けられない人間だ」と自分を責める子どもは少なくありません。しかしこれは「飽き性」という性格の問題ではなく、その分野で必要なものを吸収し終えた脳が、次の刺激を求めているサインであることが多いのです。

「何者かわからない」というアイデンティティの混乱

思春期になると、自分とは何者かというアイデンティティの問いが生まれます。マルチポテンシャライトは、「何でもできるけど、何者でもない」という感覚に苦しむことがあるものです。アイデンティティの核が見つからないような、宙ぶらりんの感覚です。

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「何になりたいの?」という問いの罪

「大きくなったら何になりたいの?」この問いは、子どもが5歳になる頃から始まり、その後の人生でも繰り返されます。しかしワプニック氏はこの問いの構造そのものに問題があると指摘します。「何になりたいか」という問いは、一つの職業・一つのアイデンティティを前提にしているからです。

「将来の仕事を選ぶのが怖い。選択肢が多すぎて。何かを選ぶということは、残りすべてを諦めることなんだ」

※ ギフテッド教育専門家タマラ・フィッシャー氏が引用したある高校生の言葉

では、何を問えばよいのでしょうか?

「今、一番夢中になっていることは何?」「最近、どんなことを組み合わせて考えたりする?」「いろんなことを全部使えたら、どんなことができそう?」

こんな問いかけで、マルチポテンシャライトが自分の複数の興味を問題としてではなく、味方のような視点として身につけていけるでしょう。

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子どもがマルチポテンシャライトかどうかを見分けるサイン

興味・関心のパターン

  • 特定の分野に猛烈にのめり込む時期と、次の分野に移る時期が繰り返す
  • 「一番好きなもの」を一つに絞ることができない
  • まったく関係のない分野同士(例:地学と料理、数学と詩)を結びつけて話す
  • 新しいことを習い始めると驚くほど速く上達する

行動・態度のパターン

  • 「将来何になりたいか」を聞かれると複数の答えを並べるか、または困ってしまう
  • 「もっと時間があればなあ」「全部やりたいのに」とよく言う
  • ある程度できるようになると急に興味が薄れ、新しいことに移る
  • 「専門化」の文脈で、不満や退屈を感じる

感情・思考のパターン

  • 「自分は何者なのかわからない」「自分の専門が何かわからない」という混乱
  • 「一つに決めなければいけないのに決められない」という罪悪感
  • 将来の選択を迫られることへの強い不安や回避

親・教師ができる7つのサポート

1. 「一つに絞らなくていい」とはっきり伝える

「いろんなことが好きで、どれも大切にしていい。一つだけ選ばなければいけないなんてことはないんだよ」というような一言が、長年「自分はおかしい」と感じてきた子どもの自己否定を大きく和らげることがあるでしょう。

2. 「飽きること」を責めない

ある分野への興味が薄れたとき、「十分に吸収したんだね。次に進む準備ができたってことかもしれない」と捉え直す視点を持ちましょう。やめることが失敗ではないという文化を、家庭の中に作ることが重要です。

3. 異なる興味の「交差点」に注目する

「数学と音楽、両方好きなんだね。数学者は音楽の構造を研究していたりするんだよ」「歴史と料理に興味があるなら、食文化の歴史って面白そうだね」。異なる分野が交わる場所を一緒に探すことが、子どもが自分の複数の興味を強みとして見始めるきっかけになります。

4. 幅広い経験を保証する

特に小学生のうちは、一つのことに特化させる必要はありません。多様な本、旅行、習い事、体験活動が、将来の交差点の素材を増やすことになります。「幅(breadth)を広げることが、後の深さ(depth)につながる」という視点を持ちましょう。

5. マルチポテンシャライトとして成功した人物の話を共有する

「レオナルド・ダ・ヴィンチは画家であり、解剖学者であり、建築家であり、発明家だった」「アインシュタインは物理学者であると同時に、ヴァイオリンを愛した音楽家だった」。彼らの例は、マルチポテンシャライトが一つに絞れない自分を誇りに思える視点を与えてくれるかもしれません。

6. 「今の興味」を大切にしながら、長期的な視点も持つ

ワプニック氏は、マルチポテンシャライトの生き方のモデルとして3つを挙げています。

  • グループ抱擁型:複数の分野を組み合わせた一つの仕事・ポジションを作る
  • スラッシュ型:「デザイナー/ライター/コンサルタント」のように複数のキャリアを並行して持つ
  • シーケンシャル型:一定期間ごとに異なるキャリアを順に生きる

7. 思春期以降の進路選択の場面では特に丁寧に関わる

高校・大学の進路選択は、マルチポテンシャライトにとって特に苦しい時期です。「学際的な分野を持つ大学・学部がある」「ダブルメジャーという選択肢がある」「大学で専攻を変えることは珍しくない」「就職後にキャリアチェンジすることも珍しくない」という情報を伝えることがとても助けになります。

英才教育・早期教育の違いとは?ギフテッドの才能の伸ばし方の基礎知識

マルチポテンシャライトとして生きた人たち

  • レオナルド・ダ・ヴィンチ:絵画・彫刻・建築・音楽・数学・解剖学・地質学・植物学・天文学・機械工学にわたる業績を残しました。
  • ベンジャミン・フランクリン:政治家・外交官・著述家・発明家・科学者として活躍。避雷針・複焦点眼鏡・フランクリンストーブなどを発明し、アメリカ建国にも深く関わりました。
  • マリー・キュリー:物理学と化学の両分野でノーベル賞を受賞した唯一の人物です。
  • ゲーテ:詩人・作家として知られる一方で、植物学・解剖学・光学の研究者でもありました。
  • イーロン・マスク:電気自動車・宇宙開発・AIと、分野をまたいだ活動で新しい価値を生み出しています。

彼らは「一つに絞れなかった人たち」ではありません。「一つに絞らなかったことで、誰にも辿り着けない場所に辿り着いた人たち」です。

◆ おわりに

「あなたは何でも好きすぎるから、一つに絞ってほしい」。この言葉が、子どものマルチポテンシャリティという才能を、どれだけ傷つけてきたかを想像してみてください。

複数の分野に深い興味と高い能力を持つことは、欠点ではありません。イノベーションが生まれる「交差点」に立てる場所に、最初から立っているという視点を持ちましょう。

今あなたのお子さんが、何でも好きで一つに決められないと悩んでいるとしたら、それはその子が豊かな可能性の上に立っているサインかもしれません。一緒に、その交差点を探していきましょう。

ギフテッドの特性を持つ著名人から学ぶ|歴史からわかる「違い」の価値
参考文献
  • Berger, S.L. (1989). College Planning for Gifted Students. Council for Exceptional Children
  • Achter, J.A., Lubinski, D., & Benbow, C.P. (1996). “Multipotentiality Among the Intellectually Gifted.” Journal of Counseling Psychology, 43, 65–76
  • Milgram, R. & Hong, E. (1993). “Multipotential Abilities and Vocational Interests in Gifted Adolescents.” International Journal of Educational Research, 19
  • Wapnick, E. (2015). “Why some of us don’t have one true calling.” TED Talk (TEDxBend)
  • Wapnick, E. (2017). How to Be Everything. HarperCollins
  • Webb, J.T. et al. (2007). A Parent’s Guide to Gifted Children. Great Potential Press
  • Davidson Institute (2024). “Tips for Students: Choosing ALL Your Passions.” davidsongifted.org

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