「この子はどこからその才能を受け継いだのだろう?」と思ったことはありませんか?
多くの親御さんが、子どもの際立った能力に気づいた瞬間、この疑問を抱くことでしょう。
特に、ギフテッドと称される子どもたちの能力は、どこまでが遺伝で、どれほどが環境によるものなのか、世界中でも議論の的となっています。
この記事では、ギフテッド性が遺伝とどのように関連しているか、また育成環境がどう影響しているのかを解き明かしていきたいと思います。
ギフテッド性の要因:遺伝
結論から言うと、ギフテッド性には遺伝的な要素が一定程度関与しています。
創造性の遺伝
一部の研究では、ギフテッド性に影響を与える遺伝的要素として、特定の遺伝子が関与していることが明らかになっています。
例えば、ギフテッド・チルドレンの要素の一つである創造性についてです。
「DRD4」というドーパミン受容体遺伝子が創造的な思考と関連していることを示した研究があります※1。
この研究では、遺伝子のバリエーションは、新しいアイデアを生成する能力や抽象的な思考に影響を与える可能性があり、これがギフテッドな能力の一因であると考えられると示されています。
IQ(知能指数)の遺伝:双子研究から
ギフテッド性と遺伝の関係を探る最も有名な研究の一つに、「ミネソタ双生児研究」があります。
この研究は、Thomas J. Bouchard Jr.氏によって1979年に始められ、一卵性双生児(遺伝子がほぼ同じ)と二卵性双生児(遺伝子が平均で50%同じ)を比較し、遺伝と環境がIQや特定の才能にどの程度影響を及ぼすかを調査したものです。

具体的には、一卵性双生児が幼少期に分離され、異なる家庭で育ったケースを中心に調査しました。
結果として、一卵性双生児のIQスコアには、非常に高い相関が見られたということです。
つまり、遺伝がIQに大きな影響を与えていることを示しています。
また、特定の才能や学業成績においても、遺伝的な要素が重要な役割を果たしていることも示されました。
IQ(知能指数)の遺伝:養子研究から
生物学的な親と養子との間のIQの相関と、養子と養親との間のIQの相関を比較する「コロラド養子研究」は、生物学的な親と養子のIQスコアには相関があり、養子と養親の間には相関が少ないことが分かりました。
これもまた、IQにおいて遺伝的要因が重要な役割を果たしていることを示しています。
一方で、ギフテッド性を決定づける単一の遺伝子が存在するわけではなく、多くの遺伝子が複雑に絡み合って影響を与えていると考えられている点は留意すべきです。
ギフテッド・チルドレンに限らず、親が子どもの興味や才能を認識し、関連する教育機会を提供することは非常に重要です。
家庭での知的刺激、社会的な支援状況などが、子どもが育つ環境がその能力の発掘と発達に影響を及ぼすからです。
一般的に、IQの高い親は、教育に対する独自の価値観や哲学を持っていて、子どもに多くの学びの機会や刺激を提供する傾向があります。
言葉でのコミュニケーションが豊かな家庭環境、学問的な疑問を探求できる環境、知的好奇心を刺激する声かけやさまざまなバリエーションの教育リソースの活用ができる環境などは、子どもの潜在能力を引き出し、得意を見つけ、発展させることに効果的です。
ギフテッド性の要因:遺伝と環境の相互作用
ギフテッド性は、遺伝だけでなく環境の影響を大きく受けることが分かっています。実際、多くの場合、遺伝と環境が相互作用することで能力が発揮されるのです。
たとえ遺伝的に高い知能を持っていたとしても、その才能が社会的に開花するかどうかは、子どもが育つ環境に大きく依存します。
知的環境がギフテッド性の発現を左右する
一般的に、IQの高い親は教育に対する独自の価値観を持ち、子どもに多くの学びの機会や知的な刺激を提供する傾向があります。
特に以下のような環境は、ギフテッドの子どもの潜在能力を引き出し、発展させるのに効果的です。
こうした環境要因が、ギフテッド性の発現を促す重要な役割を果たすことが考えられます。
遺伝と環境の相互作用:創造性の例
ギフテッド性の要素の1つである創造性についても、遺伝だけでなく教育経験や社会的環境が影響を与えることが指摘されています。
ある研究では、創造性を単なる個人の「能力」としてではなく、文化や時代背景を踏まえた社会的な現象として捉えることの重要性が強調されています。
また、科学者、音楽家、数学者などの家系では、世代を超えて特定の分野での顕著な才能が見られるケースが多くあります。
これは、ギフテッド性に遺伝的な影響がある可能性を示唆していますが、同時に、ギフテッドな親が知的に豊かな学習環境を提供しやすいという環境的要因も関係していると考えられます。
文化によるギフテッド性の認識の違い
ギフテッド性に対する認識は、文化によっても大きく異なります。
アジアの一部文化では、学業成績が非常に重視されるため、特に数学や科学に優れた能力を持つ子どもが「ギフテッド」として評価されやすい傾向があります。
ヨーロッパや北米では、創造性やリーダーシップを重視する文化があり、独創的なアイデアを生み出せる子どもが「ギフテッド」として認められやすい傾向があります。
なお、これまでのギフテッド研究は西洋のサンプルを中心に行われており、異なる文化的背景を持つ集団での研究も必要である点に留意する必要があります。
ギフテッドの遺伝を活かす環境づくり
ギフテッド性は遺伝的な要素が関与しているものの、それを活かし伸ばすかどうかは環境次第です。
知能や創造性の高さを持つ子どもでも、適切な環境がなければその能力を十分に発揮できない可能性があります。そのため、家庭や教育の場での環境づくりが極めて重要になります。
以下では家庭で実践できるステップをご紹介します。
知的刺激のある環境を
知的な才能を伸ばすためには、日常生活の中で知的刺激を受ける機会を増やすことが重要です。
例えば、日常会話の中で、論理的な思考を促す質問を投げかけたり、本や新聞を一緒に読み内容について話し合う、子どもの好きなものや興味関心の高い分野についてさまざまなトピックを議論するなどを心がけましょう。
好奇心を育む経験を
ギフテッドの子どもは非常に好奇心が強いです。
博物館や科学館、美術館へ足を運んだり、家庭でもいろいろな種類のジャンルの本やドキュメンタリーを視聴させるなど、子どもが自分で考え、学ぶ姿勢を養うよう促しましょう。
実験や観察を通じた探究型の学習の場も学校の勉強以外で取り組ませると良いでしょう。
同じ興味を持つ友達と交流できる場を見つけたり、メンターや指導者とつながる機会が、ギフテッドの子どもの知的好奇心を満たしてくれる場合も多いです。
感情面のサポートも忘れずに
ギフテッドの子どもは、知的な能力が高い一方で、感受性が強く、ストレスを感じやすい傾向があります。
能力を伸ばすだけでなく、精神的な安定を保つためのサポートも重要です。
気持ちを言葉にしたり、感情を表現する機会を意識して作り、保護者や先生が子どもの考えを理解し受け止めるようにしましょう。
知能が高いからこそ、社会とのズレを感じることがあるギフテッドの子どもにとって、心理的な安心感のある環境づくりが不可欠です。
まとめ:ギフテッド性の発現は多様な要因が関与する
以上でご紹介した通り、ギフテッド・チルドレンに関する遺伝と環境の議論は、遺伝と環境いずれの要素も重要であり、相互に影響を及ぼし合っています。
ギフテッド性の発現には、遺伝的要素と環境要因が相互に作用することが重要です。
ギフテッド性は単なる遺伝によるものではなく、環境の影響を強く受ける複雑な要素であることを理解することが大切です。
日本ではまだまだギフテッドの子どもたちへの理解が浸透しておらず、学校で困りごとや苦手を抱えている子どもも多いです。
ギフテッドの子どもたちの遺伝的な素質を理解するとともに、育成する環境注目しながら、家庭でも学校でも適切な関わり方のヒントになれば嬉しいです。