「一度聞いただけなのに、何年も前の会話を正確に覚えている」
「興味を持った分野については、驚くほど細かな情報まで覚えている」
こうした記憶力の特徴は、ギフテッドの子どもによく見られる知的特性の一つです。
日本ではギフテッドの子どもは「特定分野に特異な才能のある児童生徒」などと説明されることがあります。
幼児期から小学校低学年(数歳〜10歳前後)といった早い段階で、言語理解や知識の吸収が同年代以上に進み、「なぜ?」「どうして?」と本質を突く質問を繰り返す姿が見られることもあります。
その結果として、「この子は天才なのでは」「学習能力や知能が特別に優れているのでは」と感じる保護者や教育関係者がいるのも、自然な反応でしょう。
しかし、必ずしもギフテッド=記憶力が高い子どもというわけではありません。
この記事では、ギフテッドの子どもが持つ記憶力の特徴、学習の場で起こりやすい状態、記憶力が時に苦手さや困りごとにもなる理由、そして子どもから大人まで必要とされる支援・指導の考え方を、実際のケースや研究知見を交えてご紹介します。
ギフテッドの記憶力の特徴
記憶力がいいと言っても、単に暗記が得意というわけではありません。
記憶にはさまざまな側面があり、多くの場合、ギフテッドの子どもは記憶の使い方そのものが一般的な学習スタイルとは異なるという特徴を持っています。
ギフテッドの子どもの記憶の特徴によく見られるのは、以下のような点です。
- 意味や構造を理解したうえで記憶する
- 断片的な情報を関連づけて保持する
- 長期記憶への定着が非常に早い
- 興味や関心を持った特定の分野ではその能力が強まる
ギフテッドの記憶力は単独で優れているのではなく、理解力・集中力・創造性・知的好奇心と組み合わさった結果といえます。
学校生活や日常の中での具体的な記憶力を示す行動は以下のようなものが挙げられます。
- 数年前の大人同士の会話を、文脈ごと覚えている
- 一度読んだ本の内容を、自分なりに要約して語る
- 授業中の些細な言い間違いや矛盾にすぐ気づく
- 本人は「覚えている」という自覚がなく、それが特別だと思っていない
一方で、意味を感じにくい反復練習や、身体を使う運動、興味の薄い課題については苦手と感じるギフテッドの子どもも少なくありません。
この差が、家庭や学校生活の中では、できる・できないの振れ幅として現れやすいケースもあるでしょう。
類推力を支える”つながりのある”記憶
ギフテッドの知的特徴としてよく挙げられるのが、類推能力の高さです。
類推能力とは、別々の情報を結びつけ、共通点や構造を見出す力のこと。
その特徴の一つは、記憶が点ではなく、相互に関連づけられた情報として保存される点にあります。
具体例:
- 歴史・地理・政治・数学的な構造を関連づけて理解する
- 物語の流れと登場人物の感情を同時に覚えている
- 授業や本で得た知識を、自分の言語で再構成して説明する
単に知識を蓄えているのではなく、思考するための材料として使われているのです。
研究が示すギフテッドの記憶力の特徴
海外の研究では、ギフテッドの子どもの突出した記憶力について、たくさん覚えられるかどうかよりも、覚えたことの整理のされ方や使い方に特徴があると考えられています。
ギフテッドの子どもは、頭の中に引き出しが多いというより、引き出し同士がうまくつながっている状態に近いということです。
そのため、覚えようと一生懸命がんばらなくても、意味や流れがわかることは、自然と頭に残りやすくなります。
研究者のエリクソンとキンチュは、知的能力の高い人は、過去に覚えたことをすぐに活用できる状態で保持していると説明しています。
たとえば、昔の会話を、当時の状況ごと思い出したり、前に習ったことを、今の話題に自然につなげるなどといったことが起こりやすいのは、記憶がバラバラに入っているのではなく、意味や背景と一緒にまとめて保存されているからだと考えられています。
本人は覚えたつもりはないのに、周囲から見ると「どうしてそこまで覚えているの?」と驚かれることもあるでしょう。
さらに重要なのは、ギフテッドの子どもは、理解できたことはよく覚えるけれど意味を感じられないことは覚えにくいという点です。
研究では、知的能力の高い子ほど、なぜそうなるのかを考えながら覚えたり、自分なりに整理して理解することを幼いころから自然に行っていることがわかっています。
その結果、理解した内容はしっかり残る一方で、理由がわからない反復練習や興味を持てない学習内容については、記憶力が十分に発揮されにくいこともあります。
「覚えられるはずなのに覚えない」という場面が出てくるのは、やる気の問題ではなく、頭の使い方の違いや学びの納得感によるものといえます。
ギフテッドの強みは、覚えている量よりも、必要な情報を選び、いらない情報を頭から外す力にあるとも言われています。
つまり、関心がある、目的がはっきりしているなどの場面では、記憶力がとても目立ちますが、そうでないときは、普通の子どもと変わらないように見えることがあります
ギフテッドの記憶力は、学びを深めたり、創造的な発想につながったりする一方で、情報が多すぎる環境や理解を求められない学習が続くと、精神的な疲れやすさや負担につながることもあります。
だからこそ、どんなときに力が出やすいのか、どんな関わり方だと安心して使えるのかなどに注意できると良いでしょう。
記憶力が高くてもギフテッドとは限らない
記憶力の高さだけでギフテッドかどうかを判断することはできません。
研究や実例からも、以下のような点が指摘されています。
- 記憶力は一つの要素にすぎない
:知的能力には、理解力、推論力、処理速度、創造性、実行機能など、さまざまな側面があります。記憶力はその中の一部であり、単独でギフテッドネスを定義するものではありません。 - 理解の仕方や創造性と結びついてギフテッドネスとしてあらわれる
:ギフテッドの特徴は、「覚えていること」そのものよりも、「覚えたことをどう結びつけ、どう発展させるか」に表れます。たとえば、知識を横断的につなげて新しい視点を生み出す、抽象化して本質を捉える、独自の問いを立てるといった働きも踏まえて、ギフテッドネスが確認できます。 - 記憶力の結果だけを見ると誤解が生じやすい
:テストの点数や暗記の正確さといった結果だけを見てしまうと、その子どもの思考過程や理解の深さを見落とすことがあります。 逆に、記憶力が突出していなくても、深い洞察力や独創的な発想を持つギフテッドも存在します。
覚えている量よりも、どう考え、どう使っているかを見る視点を持ちましょう。
記憶力が困りごとになるケース | 能力より環境調整
ギフテッドの子どもや大人の中には、嫌な体験や言葉を忘れられず、感情が残り続けたり、周囲が忘れている出来事を覚えていて孤立したり、情報量が多すぎて頭が休まらないなどの悩みを抱える人もいます。
能力の問題ではなく、環境や指導方法とのミスマッチによるものです。
ギフテッドの記憶力は、周囲の理解や適切な教育・指導、支援がなければ、本人にとって負担にもなります。
学習や教育の現場では、「覚えられるかどうか」だけを見るのではなく、その子どもにどう合わせた関わりができるかが重要です。
- 無理に期待をかけすぎない
- 記憶力を前提に課題を与えすぎない
- 感情面・社会面へのサポートを十分に行う
まとめ|ギフテッドの記憶力と多様な思考
ギフテッドの記憶力の背景には、理解する力、つなげる力、抽象化する力など多様な思考の働きがあります。
意味を見抜き、情報を関連づけ、自分なりの構造として組み立て直す力があるからこそ、学びを深め、創造的な発想へとつながる可能性を秘めています。
一方で、その力や個性は常に同じように発揮されるわけではありません。
興味や目的と結びついたときには大きく花開きますが、理解を伴わない学習や過度な期待の中では、疲れや戸惑いとして現れることもあります。
その子がどう考え、どう感じ、どう世界を見ているのかに目を向けることが大切です。
こうした「見えにくい力」を、焦らず、過度に神格化せず、丁寧に見守ることが、ギフテッドの可能性を支えるもっとも確かな方法だといえるでしょう。
参考文献
- Ericsson, K. A., & Kintsch, W. (1995). Long-term working memory. Psychological Review, 102(2), 211–245.
- Schneider, W., & Pressley, M. (1997). Memory development between two and twenty. Lawrence Erlbaum.
- Kane, M. J., & Engle, R. W. (2002). The role of prefrontal cortex in working-memory capacity. Behavioral and Brain Sciences, 25(1), 51–90.
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