失敗や喧嘩、失恋、災害など、生きていれば誰しも辛いことや悲しいことがありますよね。
そうした困難な状況から人はどのように回復するのか、そしてその過程にはどのような要因が関わっているのかについて、これまで多くの研究が行われてきました。
この記事では、心の回復力やしなやかさを意味する「レジリエンス」について解説します。
研究で分かってきたことをもとに、ご自身やお子さまのレジリエンス育むヒントも合わせてご紹介していきます。
こちら。
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山崎 日菜乃
公認心理師、臨床心理士
心理士としてメールカウンセリングに3年半従事し、家族関係の悩み、心身の不調、仕事の悩みなど、様々な困り事へのサポートを行う。アメリカ合衆国在住。
目次
レジリエンスとは
「レジリエンス」(Resilience)とは、「困難で脅威的な状況にも関わらず、うまく適応する過程・能力・結果」(Masten et al., 1990)のことです。
例えば、ゴムボールは凹ませても自らの弾力で元に戻りますよね。
レジリエンスは、誰もが身に付けることのできる心の弾力のようなもので、心の回復力やしなやかさという表現をされることもあります。
また、レジリエンスは困難な状況からの回復だけでなく、人間的な成長を促進したり、健康な心を維持することにも役立つと考えられています。
レジリエンスのあり方は人それぞれ
あなたは落ち込んだ時、どのように心を回復させますか?
この問いの答えは人それぞれだと思います。
例えば、誰かと話すことで気持ちを整理していく人もいれば、一人で涙を流すことですっきりできる人、思いきり楽しい時間を過ごして元気をチャージする人もいるでしょう。
これまでの研究から、レジリエンスは独立した能力やスキルというより、困難からの回復に関わる様々な要因が組み合わさって発揮される総合力のようなものだと考えられています。
つまり、どのような要素でレジリエンスが構成されているか、どのようにレジリエンスが発揮されるかは人それぞれなのです。
そのため、落ち込んだ時に、人より早い回復や誰かと同じような回復を目指す必要はありません。
それよりも、自分にどのような資質があるのかを知り、それを活かした自分らしいレジリエンスのあり方を見つけることが大切です。
お子さまに辛いことがあった時も、このくらいの落ち込みで済むはず、このくらいの期間で回復するはずなどの期待を向けてしまうと、無理をして十分に回復できなかったり、かえってお子さまのレジリエンスが発揮されにくくなってしまうこともあります。
お子さまのペースで、その子の資質を活かしたレジリエンスのあり方をサポートしてあげられるといいですね。
後で紹介する具体的なアイデアも参考にしていただけたらと思います。
レジリエンスを構成する要因
次に、レジリエンスを構成する要因について説明します。
レジリエンスを構成する要因は、生まれ持った資質の影響が強く後から身に付けにくい資質的レジリエンス要因と、発達の中で身に付けやすい獲得的レジリエンス要因の2種類に分類することができると言われています。
以下で詳しくみていきましょう。
資質的レジリエンス要因(後から身に付けにくい)
楽観性
:将来に対して不安をもたず、肯定的な期待をもって行動できる力
統御力
:もともと不安が少なく、ネガティブな感情や生理的な体調に振り回されずにコントロールできる力
行動力
:目標や意欲を、もともとの忍耐力によって努力して実行できる力
社交性
:もともと見知らぬ他者に対する不安や恐怖が少なく、他者との関わりを好み、コミュニケーションを取れる力
獲得的レジリエンス要因(後から身に付けやすい)
問題解決志向
:状況を改善するために、問題を積極的に解決しようとする意志をもち、解決方法を学ぼうとする力
自己理解
:自分の考えや、自分自身について理解・把握し、自分の特性に合った目標設定や行動ができる力
他者心理の理解
:他者の心理を認知的に理解、もしくは受容する力
(平野,2010より)
あなたもしくはお子さまが得意なこと・苦手なことも含まれていたでしょうか?
まずは、ご自分やお子さまの得意や苦手を知ることが、レジリエンスを育む第一歩となると思います。
レジリエンス育む上でのポイント
研究では、レジリエンスを構成する要因を備えているだけでは、レジリエンスが発揮されるとは限らないと指摘されています。
レジリエンスを発揮するには、自分がどのような力やサポートを持っているかに気付き、それを活用できるようになることが必要なのです。
そのため、お子さまのレジリエンスを育む上では、お子さま自身に「自分にはこういう力があるんだ」「こんな風に自分の力を発揮できるんだ」と気付かせてあげるサポートが大切です。
また、レジリエンスを育むというのは、何があってもすぐに立ち直る子や手のかからない子に育てるということではありません。
お子さまの置かれた状況によっては、逃げたり、嘘をついたり、ずるをするといった形でレジリエンスが発揮されることも考えられます。
これらは一般的には望ましくない行動とされますが、状況によっては、それも”正しい”レジリエンスの発揮の仕方といえます。
そうした時にも、お子さまの行動を否定せず、その行動の背景にある気持ちを受け止め、レジリエンスを発揮して乗り越えようとした努力を認めてあげられるといいなと思います。
そこから、他にどんな方法があるか一緒に考えられるといいですね。
次でご紹介するアイデアも、具体的なサポート方法のヒントになればと思います。
レジリエンス育むアイデア
先程ご説明した獲得的レジリエンス要因に注目して、ご自身やお子さまのレジリエンスを育むアイデアを3つお話ししていきます。
1. 問題解決志向を育てる
目標を立ててチャレンジしてみよう
目標を立てることで、どうしたら目標に近づくか考え行動する練習をすることができます。
目標を立てる時のポイントは、誰かに認めてもらうための目標ではなく、自分が達成したい目標を立てることです。
「これができたら今よりもちょっと自分を好きになれそう」「毎日がちょっと楽しくなりそう」と思える内容の目標がおすすめですよ。
自分がどんなことが好きか、どうなりたいかを考えながら目標を立てる過程は、自分を知り、自分の意思で行動を決定する練習(自己理解を高める練習)にもなると思います。
目標を立ててそこに向かう過程では、上手くいかないことやかえって自信をなくしてしまうこともあるかもしれません。
そんな時、まずは、目標に向かおうとしていること自体や、ここまで頑張ってきたことを認めたり、今すでにできていることを見つけて、自分を励ましてあげてください。
そうして少し元気が出てきたら、ここからどう工夫すれば上手くいきそうか考えてみましょう。
情報収集をしたり誰かに相談してみるのも有用です。
こうした取り組みを繰り返すことで、目標を達成できたことで自信がついたり、達成できなかった時にそこからどう工夫するか考えたり、どんな経験からも得られたものを見つける練習にもなります。
お子さまの問題解決志向を育てる場合も同様に、上手くいかない時でも失敗を責めずその子自身のチャレンジや成長、資質を見つけて認める声かけが大切です。
例えば、「挑戦できたね」「○○ができるようになったね」「○○が得意なんだね(上手だね)」などです。
また、上手くいかない悔しさや悲しさを共有したり、言葉にならない感情を、「悲しいね」「悔しいよね」などと代弁してあげるのもいいでしょう。
十分に感情を体験したら、「次はどんな風にやってみようか?」と一緒に工夫を考えていくこともよいサポートになると思います。
お子さまと一緒に目標を立てて、共にチャレンジするのも素敵な経験になると思います。
大人が自分の価値観にそって目標を立てたり、人と比べるのではなく自分のために取り組む姿勢を見せることは、お子さまにとっても勇気や励ましになると思います。
2. 自己理解を育てる
感情に気付き、名前をつけてみよう
自己理解を深める上で、自分がどんな時にどんな感情を感じるのかに気付くことはとても大切です。
感情に気付けると、例えば、嬉しい、楽しい、幸せと感じる行動を増やしたり、それらの感情が自信や安心感、モチベーションに繋がったりしますよね。
また、一般的にネガティブと言われる感情も、大事なことを伝えてくれる存在です。
例えば、怒りの感情があることで自分や大切な人を守れたり、不安の感情があることで適切な準備をしたり危険を回避できたりします。
また、ネガティブな感情が強まった時は、心の不調のサインかもしれません。
このように、ネガティブな感情も含めて、どんな感情も大切なものです。
普段自分の感情を意識することが少ない方は、時々「今どんな気持ち?」と自分に問いかけてみると、感情に気付くきっかけになると思います。
また、感情に名前をつけることで、自分の感情を理解する助けになったり、感情を表現しやすくなります。
何となくモヤモヤしたり嫌な感じがする時は特に、「これって何の感情だろう?」と考えてみるのがおすすめです。
「感情一覧」などと検索すると様々な感情の名前のリストもありますので、それを見ながら当てはまるものを探してみるのもいいですね。
名前がつけられるだけで、幾らかスッキリできたり落ち着いたりするのではないかと思います。
お子さまの自己理解を育てる上でも、ネガティブな感情を悪者にせず、どんな感情も感じていいし大切なものだと伝えることがポイントです。
お子さまがネガティブな感情を表現した時に、「怖くないよ」「気にしない気にしない」などと感情をなかったことにせず、「怖いんだね」「怒っているんだね」などとまず受け止めることが大切です。
お子さまは感情が上手く言葉にならないことも多いと思いますので、態度で感情を表現した時に、代わりに「嬉しいね」「悔しいね」などと感情に名前をつけてあげるのもよいサポートになるでしょう。
どんな感情も周りの人が大切に受け止めてくれることで、お子さま自身も自分の感情を理解し、大切なものだと感じられるようになります。
また、自分の感情を理解することは周りの人の感情を知ろうとしたり共感する土台にもなりますので、自己理解をサポートすることで、次でお伝えする他者理解を育てることにも繋がります。
3. 他者理解を育てる
助ける・助けられる経験をしてみよう
誰かを助けようとすると、その人の気持ちや考えに耳を傾けたり、それらを理解し受け入れたりする機会が生まれます。
また、協力して困難を乗り越えることで相手との仲が深まったり、人間関係における自信に繋がることも多いですよね。
もちろん自分に余裕がある時で構いませんので、困っている人がいたら手を差しのべたり話を聴くことを心がけてみると、他者理解が深まるのではないかと思います。
また、助けてもらう経験は、人への信頼感や安心感を持つきっかけになります。
とはいえ、人にヘルプを出すのはなかなか勇気が要りますよね。これまで助けてもらった経験が少ない人は尚更かもしれません。
一人きりで頑張ってしまいがちな人は、思いきって助けてもらう経験をしてみると、他者の知らなかった面を知ることができたり、人間関係の安心感が深まるきっかけになるかもしれません。
まずはご家族や親しいご友人などの安心できる相手に、ちょっとした頼みごとをしてみるのもいいですね。
お子さまの他者理解を育てる上では、まずは「きっと助けてもらえる」という安心感を持ってもらうことが大切です。
お子さまが助けを求めた時は話を聞いて、一緒に考えてあげられるといいですね。
そうして生まれた安心感を土台にして、だんだんと人間関係を広げたり、これまで周りの大人がしてくれたように他者を理解しようとすることができるようになります。
また、遊びやスポーツでは、楽しみながら安全に失敗を経験することができ、助けたり助けられる機会がたくさんあります。
そのため、お子さまと一緒に遊んだり、誰かと一緒に遊ぶ機会を作ることも、他者理解を育てることに繋がると思います。
一緒に遊ぶ際は、お子さまの素敵なところを見つける視点をもって「○○してくれて助かったよ・嬉しかったよ、ありがとう」と伝えたり、他者の気持ちが理解できるように「○○されると嬉しいな・悲しいな」などと伝えてあげるのもよいサポートになると思います。
おわりに
日常生活にはレジリエンス育むチャンスがたくさんあります。
きっとあなたもお子さまも、これまで様々な経験を通してレジリエンスを育み発揮してこられたことでしょう。
今回ご紹介したアイデアも、レジリエンスを育むチャンスを増やすヒントになれば幸いです。
自分の持っている力やサポート源を自覚することは、レジリエンスを発揮する大切な土台となります。
日頃から、ご自分(お子さま)のできていること、得意なこと、周囲にどんなサポートがあるかに目を向けながら過ごせるといいですね。
それがきっとあなたらしい(お子さまらしい)レジリエンスを発揮することに繋がると思います。
参考文献
平野 真理(2010).レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み―二次元レジリエンス要因尺度(BRS)の作成― パーソナリティ研究,19,94-106.
Masten, A. S., Best, K. M. & Garmezy, N. (1990). Resilience and development: Contributions from the study of children who overcome adversity. Development and Psychopathology, 2, 425–444.
臨床心理マガジンiNEXT(2023). 38-3. レジリエンスを引き出す心理支援https://note.com/inext/n/n751a057bbe56 (2024年5月9日)
佐藤 暁子・金井 篤子(2017). レジリエンス研究の動向・課題・展望 : 変化するレジリエンス概念の活用に向けて 名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要, 心理発達科学 64, 111-117.
上野 雄己・飯村 周平・雨宮 怜・嘉瀬 貴祥(2016). 困難な状況からの回復や成長に対するアプローチ 心理学評論, 59 (4), 397-414.
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