イギリスのギフテッド教育とは?地域別にご紹介【現地レポート】

イギリスの教育制度では、「すべての子どもに学ぶ機会を平等に」という考えが基本にあります。

ですが、実際には子どもの個性や能力はさまざま。

特に、飛び抜けた才能や学力を持つ「ギフテッド」や「タレンテッド」と呼ばれる子どもたちには、どのような配慮がされているのかは地域ごと、学校ごとによって差があります。

この記事では、イギリスで暮らす心理の専門家の視点から、ギフテッドの子どもの教育について、地域ごとの方針や、実際のサポート体制についてご紹介します。

日本の保護者の皆さんが、ギフテッドの子どもの学びを考える際の参考になれば幸いです。

髙井 菜美

執筆:高井 菜美


公認心理師・臨床心理士

イギリス在住、2児の母。大学、大学院で臨床心理学を学び、臨床心理士及び公認心理師の資格を取得。精神科病院(主にデイケア)にて、心理士として相談、社会支援などに従事。

「ギフテッド(Gifted)」とは、さまざまな分野で突出した才能を持つ子どものことを言います。

なお、「タレンテッド(Talented)」という言葉もありますが、スポーツや芸術など学業以外の分野で特別な能力を発揮する子どもを指すことが多いです。

イギリスでは、かつては国全体で才能ある子どもを支援するプログラムがありましたが、2010年に国家的な支援制度は廃止され、現在は地域や学校ごとの対応に任されています。

イギリスでは、ひとりひとりの子どもを観察し、教師または保護者が子どもに学習するにあたり困難さがあり追加のサポートが必要であると認識された場合には、それぞれの学校に配置されているSENCoによって子どもたちが能力を発揮できるように支援を計画することがあります。

イギリス全土においても、ギフテッド(Gifted)やタレンテッド(Talented)の子どもたちについては日本よりは広く一定の認知はされている一方で、ギフテッド・チルドレンをどのように、どこまで支援を行うかについては地域、学校の特性や構成される教職員によって多少の違いが生じています。

英国内でも4つの構成国であるイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドそれぞれで、現時点においてはサポート方法などに違いがみられるため、以下で、それぞれの地域における取り組みをご紹介していきます。


イングランド地方では、2010年にYoung, Gifted and Talented Programが終了しました。

その背景として、このプログラムが一部の人から「エリート主義的である」と批判を浴びたことが背景にあります。

現在では、各学校のポリシーに則った独自のサポートに任せる枠組みへと変更されました。

Pupil premium(学生プレミアム)という財源を利用して、非常に高い才能があるがある一方で恵まれない背景を持つ子どもへのサポートをすることも可能です。

Ofsted(学校検査機関)によると、「優れた」学校は、すべての生徒の個人的な発達を促進し、「生徒の才能や興味を育て、発展させ、伸ばす」機会を提供すべきであるとも述べられているにもかかわらず、制度としては充実していないことが見てとれます。


アイルランドでは、学校はより挑戦的な授業や課外活動を提供するとともに、小学校の時から1年早めて進級することが期待されています。

ギフテッドやタレンテッドの子どもたちが能力を発揮できるよう、サポートの非法定ガイドラインが北アイルランドでは教師向けに提供されているそうです。

一方で、アイルランドでは、非常に優秀な子どもたちに関する直接的な方針を持っている学校はほとんどなく、既存の制度下では、そのような生徒に対して特別な措置を講じる必要はない状況で、あるとしても学校外プログラムです。

ギフテッドの子どもたちに対する特別なサービスの提供には、ほとんど注目が集まってきませんでした。

アイルランドの教育者は、その歴史的な背景も関係し、カリキュラムの差別化や促進など、才能のある生徒に特別なサービスを提供する経験がほとんどなかった可能性が示唆されています。

教育科学省は、特別な教育ニーズ(SEN)を持つ学生を差別化することを推奨していますが、特に能力のある学生ではなく、サポートなしでは達成できない学生のニーズに応えることに重点が置かれている状況です。


ウェールズでは、学校が才能ある生徒を特定し、個別の学習計画を与えることが期待されています。

2022年より新しいカリキュラムとして、全てのこどもが自分の能力に応じて進歩できること、自身の学習の設計や指導などについて発言できる権利を持つことができることを目的としています。

「すべての子どもが自分のペースで学びを深められること」を重視しています。

取り組みとして、経済的支援の必要な人々のための助成金制度や、成績優秀者の大学進学支援なども行われているようです。


スコットランドでは、ギフテッドの生徒を含む、”サポートの必要な学習者”に追加サポートを提供することが法律で義務付けられています。

しかし、才能のある生徒に特別な支援を提供しきれていない、政策で示された目標と経験との間に大きな乖離があるとの調査結果があり、2020年10月にスコットランド政府より、より才能ある生徒の経験を向上させるための行動計画を実施するとの発表がなされました。

「SNAP」という、SENあるいはギフテッドの子どもたちをサポートするためのアイディアや取り組みをまとめ、それを学校や教師が利用できるサービスが存在しています。

そういったリソースを用いながらどのように学校として高い能力を持つ学習者を識別・サポート・指導していくかについては検討と挑戦をされている最中です。

また、スコットランド政府と自治体は子どもたちの意見を聴き、さまざまなネットワークや支援のための組織と連携を図り、よりよいサポートシステムを構築するための取り組みが重ねられています。

イギリスでは、「できる子」に対して特別な支援が保証されているわけではありません。地域や学校、さらには先生の理解によって差が出るのが現状です。

一方で、イギリスの学校では「子どもをよく観察し、個別の学習スタイルに合わせた対応」を基本とする姿勢が浸透しています。もしお子さんに特別な才能があると感じた場合は、担任やSENCo(特別支援コーディネーター)に相談することで、適切な支援につながる可能性があります。

イギリスの事例から学べることはたくさんあります。

例えば、以下のような点があるでしょう。

  • 学校としっかり連携して、わが子に合った学び方を一緒に考える姿勢を大切にする
  • 「みんなと同じ」だけが正解ではないことを理解し、子どもの得意を尊重する
  • 家庭でも子どもの興味を伸ばす機会を意識的に作る

イギリスにおけるギフテッドやタレンテッドの子どもたちへの教育支援は、地域によって様々なアプローチがとられているものの、全体としてはまだ発展途上中であることが見て取れますね。

それぞれの学校や地域が独自の方法でこれらの子どもたちの教育ニーズに応えようと努力していることは称賛に値しますが、国としての明確なガイドラインや支援の強化が今後の課題として残されています。

私たち自身の教育環境においても、こうした事例から学び、すべての子どもが自身の才能を存分に発揮できるような教育の提供を目指したいですね。