子どもが嘘をつく理由【前編】 日常は些細な“嘘”に溢れてる!大人から学習している子どもの嘘

「子どもが嘘をつくんです…」

「すぐに分かるような嘘ばかり…」

親御さんからの相談で、そんな発言を何度も聞いてきました。

「嘘は泥棒の始まり」ということわざがある通り、平気で嘘をつくような人にはなってはいけない。

だからこそ、嘘はいけないこととお子さんに教え、親御さん自身も自分の親からそのように教わってきていることを多いと思います。

子どもたちが「嘘をつく」と聞くと、多くの親御さんは心配や不安を感じるかもしれません。

しかし、嘘をつく行為自体が、子どもの成長や社会性の発達における段階であることを理解することは、育児において非常に価値のある洞察です。

本記事では、子どもたちがどのようにして日常の中で嘘を学び、発達に関わっているのかを探ります。

また、親御さん自身が無意識のうちに示す行動が、子どもたちにどのように影響を与えているのかについても考察し、より健全なコミュニケーションの方法を提案します。

この記事を書いた専門家

日塔 千裕


公認心理師、臨床心理士

発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。

子どもには「嘘はダメ」と教えますが、では、大人は嘘をついていないのでしょうか。

一度も嘘をつかずに大人になっている方がどの程度いるでしょうか。

実際のところの数は分かりませんが、嘘をつかずに大人になった方はほぼいないのではないでしょうか。

親御さん自身も自分のことを思い出してみてください。

ちょっと気乗りしない誘いに、本当は特に予定は入っていないけど「その日は予定があって…」と断ったり、そこまで親しい関係性ではない人との話題で、その人が興味持っているものや好きなものの話の時に自分はそこまで興味なくても興味があるように振る舞ったりなど、大なり小なり、そのような経験はあるのではないでしょうか。

「嘘も方便」ということわざもある通り、基本的に嘘はダメだが、時には必要な嘘もあるということです。

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一般的に嘘というのは、正直に事実を話すことによる不利益であったり、嘘をつくことによる利益であったり、少し先の状況や周囲の状況への想像が働くことによりできることなのです。

「嘘をつく」ことにもさまざまなスキルが必要であり、嘘をつくことができるのはお子さんが成長している証となります。

どんな嘘をつくのか、内容によって、どんなスキルを使っているかは変わってきますが、例えば、こんなスキルが必要となります。

・自分がやりたいことと・やりたくないことがはっきりして、自分の意思がある

・親から見て、どう思われるかなど他者視点で考えることができる

・どうすれば自分の望む状態を手に入れる、あるいは避けられるかなどを想像することができる

「すぐバレるような嘘」などまだまだ想像の甘さがあるかもしれませんが、成長途上が故です。

それでも、1年前よりは想像力が高まっているからこそ、嘘をつくことができる。嘘をつくという行為自体は、子どもの成長過程として、自然な反応というわけです。

親御さんによってはお子さんに「嘘をつかないの!」と叱ったら、お子さんから「お母さんだって嘘ついてるじゃん!」と返されたことがある人もいるかもしれません。

そんな時、「大人はいいの!」などと返してはいないですよね。そんな返しをしても、お子さんは納得しません。

そのような返しをするお子さんは、周囲のことがよく見えていて、判断力があり、とても賢いお子さんでしょう。

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親にとっては「嘘」なんて1ミリも思っていないことでも、実はお子さんに嘘をついてしまっているということが日常生活には溢れているように思います。

例えば、

・お子さんが「お菓子買って」とねだって、親御さんが「今度ね」と言ったのに、次に一緒に買い物に行ってもお菓子を買ってもらえない。

・学校での出来事を親に話したくて「ねぇ、聞いて」とお子さんが親御さんに話し掛けると、親御さんからは「後で聞くから宿題やっちゃいなさい」と言われた。宿題を終わらせて話を聞いてもらおうと思ったら、今度は「お風呂入りなさい」と言われ、話を聞いてもらえない。

お菓子の例は、親御さんからすれば、お菓子を買ってあげているときもあったとしても、お子さんが「欲しい!」と言ったタイミングで買ってあげているか、そのときのお子さんへの返答の仕方次第で、お子さんに“嘘”と受け取られてしまうことがあるのです。

親御さんからすると、何気なく「今度ね」などと返していることも多いかもしれません。

そんな何気ないやり取りを、お子さんはとてもよく覚えています。

お子さんと一緒に買い物に行っていないタイミングでお菓子を買って、いろんな種類のお菓子を用意してあげることよりも、一緒に行ったタイミングでお子さんが「欲しい!」と言ったとき、自分で選べることが重要なのです。

そのため、親御さんに「今度ね」と返されて、次に一緒に買い物に行ったときにも「今日は買わないよ」「今度ね」などと返されると、お子さんからすると「この前も今度って言ったのに!」と親御さんに嘘をつかれたと受け取られてしまう可能性があるのです。

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学校での出来事を話したいお子さんの例も同じです。

お子さんは「宿題を終わらせたら話を聞いてくれる」と親御さんに言われたと思い、宿題をがんばって終わらせた。にもかかわらず、宿題が終わったら別の指示が飛んできて、話を聞いてもらえない。

お子さんにとっては、「さっき宿題が終わったら聞いてくれるって言ったのに、いつまで経ってもきいてくれないじゃないか!」と親御さんの言動を嘘ついたと捉えてしまいます。

親御さんからしてみれば、嘘をつこう、子どもを騙そうなんて意識は全くないことでしょう。

親御さんが悪いということではなく、親御さんからすれば目の前の生活を回すことに必死な結果のことだと思います。

これはお子さんと親御さんの優先順位の違いによるものです。

ただ、その優先順位の違いが、親御さんの発言をお子さんに嘘と取られてしまっていることがあるのです。

このような、本当に些細なことの積み重ねが「大人が嘘をついているんだから」とお子さんに嘘を学習させていくことになっているのです。

お子さんが保育園・幼稚園の頃には、ヒーローごっこやプリンセスごっこなど、テレビやYoutubeで見たものを繰り返し真似て遊んでいる子も多いでしょう。

また、保育園や幼稚園で子どもたちがままごとをしていると、家庭の様子が筒抜けで先生にバレてしまったという経験がないでしょうか。ご自身の経験としてなくても、そんな話を耳にしたことはあるなんて人もいることと思います。

お子さんはお母さん・お父さんの会話をよく聞いていて、ままごとの中で、その会話をそのまま再現していることがあるのです。

これは、人の能力として観察学習(モデリング)というスキルが備わっているからなのです。

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赤ちゃんが言葉を学んでいく過程でも、観察学習は起きています。

周りの人の声・言葉をよく聞いて、真似しながら、声の出し方・言葉の発し方を学んでいくのです。

さまざまなスポーツを学ぶときにも、まずは真似することから始まります。

どんな学びでも、まず真似をして習得して、徐々に自分のやり方へと変化させて自分のものとして身につけることができるのです。

そのような“真似”が観察学習(モデリング)です。

お子さんも日常生活で無意識にあたり前のように観察学習をしています。

なので、親御さんの些細な言動を学習し、お子さんなりに同じように行動(再現)しているということです。

親御さんとしては、「日常生活がスムーズに送れるように必死に考えているだけなのに…」という思いでしょう。

そんながんばりをお子さんから“嘘”と受け取られてしまってはもったいない。

さらに、そんな些細な歯車のズレは、思春期での対応の難しさにも影響する可能性もあります。

よりよい親子の関係性のためにも、些細なところに注意を向けて、“嘘”と受け取られにくい、一貫性のある言動を大人して心掛けていくことが大切です。

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お子さんのタイプや家庭の状況により、何が取り入れやすいかは変わってくるので、こちらをヒントにアレンジしてみてください。

先ほどのお菓子のおねだりの例で言うと、

事前に「今日はお菓子は買わないよ」と伝えてから、買い物に行く

買い物の何回かに1回は「今日は好きなお菓子を買っていいよ」と子どもに選ばせる

買い物に一緒に行く毎にシールを貼り、5枚集めたら好きなお菓子を買えるというルールを決める

などが効果的です。

また、話を聞いてもらいたいタイプのお子さんは、以下の方法も試してみてください。

子どものタイミングで話を聞く


:3分など時間を決めて、砂時計やタイマーでセットしてもいいです。親御さんが家事をしているのであれば、お子さんに横に来てもらって、家事をしながらでもOKです。ただし、家事をしながらもお子さんに目を合わせるタイミングも作り、相槌や質問などをして話はしっかり聞いてあげましょう。

「〇〇が終わったら」と伝えるのであれば、それは必ず守る


:お子さんの活動が終わったタイミングと親御さんの活動が終わったタイミングのズレが生じやすいので、待つ時間が発生すること、親御さんが次の活動を始めていても次は手を止める必要があることも念頭に置いておきましょう。

寝る前に毎日、一日の報告時間を作る


:そこまでの間にお子さんが話したい様子があれば、紙やノートを渡して、書いておいてもらうのも方法です。そのメモを見ながら、寝る前に質問してあげて、より詳しく話を聞いてあげられるといいです。

どの家庭でも、どんな人間関係でも、ごく自然に起きているような本当に些細な言動です。

ただ、そんな些細な言動の積み重ねが、親子関係の歪みにもなり得るのです。

以上で見てきたように、子どもたちが嘘をつく背景には、成長と発達、そして親御さんが日常的に示す行動もまた、子どもたちに大きな影響を与えています。

お子さんの“嘘”を改善させたいとお考えであれば、まずはここで記載した内容の視点で親御さん自身の言動の見直しも試してみましょう。

親御さん自身が一貫性のある言動を心掛けることで、子どもたちの信頼を得るとともに、彼らの社会的スキルの発展をサポートとすることもできます。

子どもが嘘をつく理由【後編】」では、嘘の種類とその対応と、その”嘘”の後ろに隠れている理由をお伝えしていきます。お子さんへのアプローチという両方を平行して行っていけるとよいでしょう。

この記事を通じて、子どもたちの「嘘」に対する新たな理解を深め、親子間の健全な関係を築くための一歩を踏み出すヒントになれば幸いです。