【心理士が解説】ギフテッドの子どもの診断とWISCの検査結果の読み解き方
ー何を見ればいい?親が知っておきたい”3つの読み方”ー

お子さんがWISC検査を受け、いざ結果説明の日。
特に初めて検査を受け、渡された用紙には、見慣れない数字とアルファベットの略語がずらりと並んでいる。
専門家の説明を聞きながら、「FSIQ」「言語理解(VCI)」「視空間(VSI)」など次々と出てくる言葉に、うなずきながらも頭の中が追いつかなくなっていく経験をした親御さんは、決して少なくありません。
知能検査の結果は、お子さんを理解するための大切な情報が詰まっているのに、読み方を知らなければ、ただの数字の羅列にしか見えませんよね。
そこでこの記事では、WISC-Vの結果を読み解くための3つの視点を長年臨床現場に関わってきた心理士がご紹介します。
この3つの視点を持つだけで、検査結果をどう活用していけばいいか理解が深まると思います。
この記事を書いた専門家

日塔 千裕 ひとう ちひろ
公認心理師・臨床心理士
発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。
WISC-Vとはどんな検査?全体像を解説
WISC-V(ウィスク・ファイブ)とは
WISC-V(ウィスク・ファイブ)は、5歳から16歳11か月の子どもを対象とした知能検査です。
積木を使った課題、言葉で答える課題、絵や図形を見て答える課題など、さまざまな種類の課題を通じて、子どもの知的能力を多角的に測定します。
検査結果として最初に目に入るのが、「全検査IQ(FSIQ)」という数値です。
これがいわゆる「IQ」として伝えられる数字で、平均が100、標準偏差が15に設定されています。
つまり、85〜115の範囲がおおよそ「平均的=年齢相応」とされる水準です。
この年齢相応とは、お子さんが検査を受けた時期が10歳2か月であれば、月齢まで見て10歳2か月の同年齢集団の中で「平均的=年齢相応」となります。
結果の報告書には「〇歳〇ヶ月」という実施した月齢まで書かれているはずなので確認してみてください。
知能検査は”数値の高さ”を見るのではない
WISC-Vの本質はFSIQの1点を出すことではありません。この検査が測っているのは、「知能の高さ」というよりも「知能の使い方のパターン」です。
WISC-Vには、FSIQのほかに以下の5つの指標があります。
- 言語理解指標(VCI)
- 視空間指標(VSI)
- 流動性推理指標(FRI)
- ワーキングメモリ指標(WMI)
- 処理速度指標(PSI)
それぞれが「頭の使い方」の異なる側面を測っていて、この5つの指標のバランスや組み合わせを見ることで、お子さんの知能の特徴が見えてきます。
各指標が日常のどんな場面に現れるかについては、次回以降の記事で詳しく解説します。
WISC-Vの読み方:3つのポイント
ポイント1. FSIQだけを見ない
WISC-Vの結果を受け取って最初に目を向けるのは、多くの場合FSIQだと思います。
「130だった」「115だった」など、その数字に一喜一憂するのは自然なことです。
前の記事(『ギフテッドの知能特性と検査結果の読み解き方(導入編)「ギフテッドと高IQの関係─IQが高いのに、なぜ生きづらい?」』)でも触れましたが、FSIQは5つの異なる知的能力を測った結果を「1つの平均値」としてまとめたものです。
たとえば言葉で考える力が130、情報を素早く処理する力が100だった場合、FSIQは115前後になります。
「IQ115」という数字だけを見れば「高い」という印象になりますが、その裏には30ポイントもの差が隠れています。
ギフテッドの子どもに多く見られるのが、まさにこのパターンです。
FSIQが高水準であっても、その内側に大きな得意・不得意の差を抱えていることが珍しくありません。
「IQ130だから何も問題ない」という判断は、このアンバランスを見えなくさせてしまうリスクがあります。
FSIQは「全体の目安」として参考にする数字です。それ以上でも、それ以下でもありません。
ポイント2. 指標間のバランスを見る
FSIQの次に見てほしいのが、5つの指標のバランスです。
つまり、全検査IQ(FSIQ)を除く、
- 言語理解指標(VCI)
- 視空間指標(VSI)
- 流動性推理指標(FRI)
- ワーキングメモリ指標(WMI)
- 処理速度指標(PSI)
の5つの合成得点のバランスです。
5つの指標がすべて同じくらいの水準に揃っている場合、お子さんの知的能力は比較的バランスよく発達しているといえます。
一方、指標によって数値の差が大きい場合、特定の力が突出して高かったり、特定の場面で著しく負荷がかかっていたりする可能性があります。
たとえば、言語理解指標(VCI)が130と非常に高く、処理速度指標(PSI)が90と平均的な水準だった場合、この子は「言葉で考えることは得意だが、素早く作業をこなすことには負荷がかかりやすい」という特徴を持っている可能性があります。
授業中の板書や時間制限のあるテストで力を発揮しにくい一方、ディスカッションや読書では突出した力を見せる、というイメージです。
「どの指標が高くて、どの指標が低いか」を把握することは、お子さんの得意な場面・苦手な場面を具体的に理解するための出発点です。
指標ごとの特徴と日常生活との関連については、次回以降の記事で詳しく解説します。
なお、5つの指標がすべて高水準で差も小さい場合、一見「何も問題ない」と思われがちですが、【専門家が解説】IQが高いのに生きづらい?ギフテッドの子どもとWISCの検査結果でも触れているように、全体的に知的水準が高いこと自体が生きづらさの背景になることがあります。
指標間のバランスが取れているからといって、困りごとがないとは限りません。
「差がないからこの子は大丈夫」ではなく、「どの指標がどの水準にあるか」という絶対的な高さも合わせて見ることが大切です。
こうしたケースについては実践編でくわしく扱います。
ポイント3. 得意・不得意の差(ディスクレパンシー)を見る
3つ目の視点は、指標間の「差の大きさ」に注目することです。
つまり、全検査IQ(FSIQ)を除く、5つの合成得点において、
・言語理解指標(VCI)と視空間指標(VSI)との差
・言語理解指標(VCI)と流動性推理指標(FRI)との差
・言語理解指標(VCI)とワーキングメモリ指標(WMI)との差
・言語理解指標(VCI)と処理速度指標(PSI)との差
といったいずれかの2つの指標間に差があるのか、ないのかということです。
検査結果の報告書や専門家からの説明の中で、「大きな差があります」「有意な差が見られます」といった表現が出てきた場合、それはこの指標間の差を指しています。
「有意」という言葉は難しく聞こえますが、「統計的に見て、偶然とは言えないほどの差がある」という意味です。
また、専門家によっては「ディスクレパンシーがあります」という表現を使うこともあるかもしれません。
「ディスクレパンシー」とは「乖離」、つまり指標間に大きな差がある状態を指す専門用語です。報告書や説明の中でこの言葉が出てきた際の参考にしてください。
たとえば、最も高い指標が130で最も低い指標が85だった場合、その差は45ポイントになります。
これは非常に大きな差です。得意なことと苦手なことがこれだけ離れているとき、お子さんの日常生活にはどんなことが起きているでしょうか。
「こんな難しいことができるのに、なんでこんな簡単なことができないの?」という場面が、日常的に生まれやすくなります。
お子さん自身にとっては、得意な領域では力を発揮できる一方、苦手な領域では同年齢の子どもと同じことをするだけで大きなエネルギーを消耗します。
その落差が積み重なることで、自己評価が傷つきやすくなったり、「自分はおかしい」という感覚につながったりすることがあります。
どのくらいの差があれば凸凹?集団生活での困り感とは
厳密には指標の組み合わせごとに統計的な基準が定められており、一律ではありません。
ただ、専門家でない親御さんが結果を見る際の目安として、20ポイント程度以上の差を1つの目安として「大きな差がある」と捉えてよいでしょう。
そして、もう1つ知っておいてほしいのは、この「大きな差」が同年齢の集団の中でどういう意味を持つかということです。
指標間に“有意な差”が生じることは、同年齢の子どもたちの中では決して多くありません。つまり「大きな差がある」という状態は、それだけ少数のケースであるということです。
お子さんが日常生活の中で感じている困りごとや消耗は、「珍しいことが起きている」という前提で受け止めることが大切です。
差の大きさだけでなく「どの指標が高くてどの指標が低いか」という組み合わせによっても、困りごとの内容は大きく変わります。
ギフテッドの子どもはこうした指標間の差が特に大きいケースが多く、FSIQだけを見ていると見落とされやすい困りごとを抱えていることがあります。
この差の大きさに気づくことが、支援のための第1歩です。
まとめ:検査結果は「診断書」ではない
いかがでしたか?今回ご紹介した3つの読み方を振り返ります。
①FSIQだけを見ない
FSIQは平均値にすぎず、その1点だけでお子さんの知能を判断することには限界があります。
②指標間のバランスを見る
5つの指標のどこが高くてどこが低いかを把握することで、得意な場面・苦手な場面が具体的に見えてきます。
③得意・不得意の差を見る
指標間の差の大きさが、日常生活の困りごとと深く関連しています。
検査結果は「この子はこういう子だ」という診断書ではありません。
「この子の頭の使い方はこういう特徴がある」というヒントです。
次回の記事では、5つの各指標が日常のどんな場面に現れるかを、高い場合・低い場合それぞれの具体的なシーンと合わせて解説します。
また今後公開される実践編では、ギフテッドの子どもに見られやすい知能の特徴のパターンと、日常生活への落とし込み方を扱います。
検査結果を「知って終わり」にしない読み方をするための参考にしていただけますと幸いです。
参考文献
日本版WISC-V刊行委員会(2022).『日本版WISC-V 知能検査 理論・解釈マニュアル』日本文化科学社


