ギフテッド教育の10のポイント | 世界と日本の違いを解説
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ギフテッド教育の10のポイント | 世界と日本の違いを解説

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「どうして日本のギフテッド教育は、こんなに遅れているの?」

そう感じたことがあるギフテッドの保護者の方は、きっと少なくないはずです。

この記事では、ギフテッド教育について、世界の主要国の制度・実践・研究動向と、日本における2021年以降の政策転換および現場実装の課題を整理し、世界のギフテッド教育研究が向き合ってきた10のポイントを軸に、日本がいまどこに立っているのかを整理しながらご紹介しようと思います。

世界と日本のギフテッド教育10のポイント

ギフテッド教育に、世界共通で「ひとつの答え」があるわけではありません。

それぞれの国や地域が、自国の文化や教育制度に合わせて概念の定義や仕組みづくりを模索しています。また、歴史的な背景や宗教観から影響を受けている場合もあります。

日本では、2021年に文部科学省の有識者会議が立ち上がり、2023年度から「特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業」が動きはじめました。

2030年以降の学習指導要領の改訂に向けて、慎重に検討が進められています。

今回は、ギフテッド教育の日本の動きや概念の違いを世界と対比しながら、紹介していこうと思います。

各ポイントは「世界ではどう議論されているか」「日本ではいまどうなっているか」の2列で並べて整理します。

賛否両論を含むポイントもありますが、特定の立場を推すのではなく、全体の見取り図をお伝えすることを優先しました。

【ポイント1〜3】「誰を・どう見つけるか」

最初の3つのポイントは、「そもそも、誰をギフテッドとして見つけ、どの専門家が支援するのか」という問題です。

その後の制度設計自体にも大きな影響が出るため、まずこの入り口を丁寧に検討する必要があります。

ポイント1|定義と識別の公平性

「ギフテッド=IQ130以上」というイメージを持っている方は多いかもしれません。

しかし、IQ単一の基準を使うよりは、多面的な特性を把握することが重視されてきています。

IQだけで識別すると、低所得家庭や文化的少数派、英語を第二言語とする子どもが、系統的に「見落とされる」ことが繰り返し実証されています。そのため米国では、全員をまず一次スクリーニングに通す「ユニバーサル・スクリーニング」や、学校・学区ごとに基準を置き直す「ローカル・ノーム」が対応策として広がっています(Card & Giuliano, 2016/Peters et al., 2019)。

文部科学省のポイント整理(2022年)は、あえて数値的な識別基準を設けず、「困難さと才能の両面を包摂する」立場を示しました。裏を返せば、全国共通の識別手続き自体がまだ存在していない状態で、公平性を検証することもこれからの課題です。

ポイント2|2E(ギフテッド+発達特性)への配慮

「苦手なことはとことん苦手。得意な分野ではとことん得意」

そんな二面性を持つ子どもたちは、「2E(Twice-Exceptional/二重に例外)」と呼ばれます。

米国では特別支援教育の法律(IDEA)とギフテッド教育を、IEP(個別教育計画)の中で同時に走らせる仕組みが一般化しています。アイオワ大学のBelin-Blank Centerのように、2Eを専門に診断・支援する臨床機関も複数存在します。

日本では「特別支援教育」と「才能教育」を所管する行政部署が明確ではなく、制度的な橋渡しが十分ではありません。そのため2Eの子どもたちの多くが、適切な支援にたどり着く前に、不登校・行き渋りや二次的な困りごとに流れ込んでしまう、という問題も指摘されています。

ポイント3|教員の養成

学校では、子どもたちが才能を活かしながら、困りごとに対処できる環境で、自分に合った学び方で過ごせると理想的ですよね。

しかし、教育現場でどれだけ個別最適な対応ができるかには限界があるのも事実です。

そのため先生たちがどこまで対処しないといけないか、どこまでは理解しておかなければならないか、などについてもさまざまな議論や考え方があります。

理解をすることと、実際に現場で対処することは別なので、教員でなくてもメンターやファシリテーターのような存在がフォローすることが当面の現実的な対応だと思います。

米国のNAGC(全米ギフテッド児童教育協会)は教員養成の標準を公式に定め、欧州ECHAは「ECHA Specialist in Gifted Education」という継続研修のディプロマ制度を運営しています。ドイツとオランダでは、このディプロマを持つ教員が学校ごとに配置される体制が整いつつあります。

日本の教職課程コアカリキュラムに「才能教育」という科目は含まれておらず、現職教員向けの研修も、自治体や民間の散発的な取り組みにとどまっています。独立行政法人教職員支援機構(NITS)のオンライン講座が2023年以降に拡充されつつある段階です。

なお、愛媛大学では、2025年4月に日本初となる「才能教育センター(Centre for Gifted Education and Talent Development, EU-GATE)」を教育学部附属施設として設置しました。

教員のギフテッド児に対する理解が浸透することが期待されます。

多様な分野を専門とする教育学部の教員はもちろん、附属の幼稚園・小・中・高・特別支援学校の教員が実践知を携えて参画し、国内外から招聘する客員教授との対話と連携により、活動の質を高め、知見の波及を図ります。

愛媛大学HPより

【ポイント4〜6】「どう学びを広げるか」

次の3つのポイントは、「見つけた子どもの学びを、どう広げていくか」という問題です。

学年の枠組み、心理的サポート、高校・大学など進路への接続という、3つの角度から見ていこうと思います。

ポイント4|加速学習(飛び級/早期入学)と制度

「飛び級」という言葉を聞いた方は多いと思います。しかし実際には、日本の教育現場で実施されている例はほとんどありません。

知的には年齢以上だとしても、精神的な成熟度や発達は年相応あるいはそれ以下の場合も少なくなく、社会性や情動的なサポート環境の観点からも、世界でも飛び級は1〜2学年の範囲というのが一般的のようです。

米アイオワ大学のColangeloらによる大規模なメタ分析『A Nation Deceived』(2004年)『A Nation Empowered』(2015年)は、適切な加速は学業成績・社会性・自己肯定感のいずれの面でもプラスに働くことを示しました。ポーランド・ドイツ・イスラエルなどは義務教育段階での飛び級が制度的に認められています。一方で、どれだけ早修させるかは議論があり、社会性や発達段階に合わせて調整することが重視されていたり、制度としては存在するが実施されている例が極めて少なかったりします。

日本の義務教育段階では、そもそも飛び級が学校教育法の枠組みで想定されていません。大学への早期入学(学校教育法第90条第2項)は一部の大学で可能ですが、小学校・中学校段階での選択肢は事実上ありません。2022年の有識者会議でも議論には挙がりましたが、制度改正は保留となりました。

ポイント5|社会情動的な支援

ギフテッドの子どもたちは、知的には大人並みなのに、感情の面では年齢相応かそれよりも幼いことがあります。

知的な発達と精神的・感情的な面でのアンバランスさを「非同期発達」といいます。

こうした知性の複雑さや感情の深さについて、丁寧に対応することがギフテッド教育においてはとても大切になってきます。

NAGCは2018年に改訂した「Social and Emotional Needs」ポジションステートメントで、非同期発達・完璧主義・過剰激動性(OE)・実存的不安・いじめ・孤立などに対する専門的支援を、制度として要求しています。スクールカウンセラーがギフテッド特有の課題について研修を受けている国が複数あります。

日本のスクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーは、ギフテッド教育や才能教育に関する体系的な研修機会をまだ持っていない場合が多いです。結果として、保護者団体が運営するピアサポートや、一部の専門クリニック、ギフテッド専門のカウンセラーが、当事者や家族の受け皿として機能しています。

ポイント6|高校・大学・キャリアへの接続

小中学校でギフテッドネスや個性を尊重してもらえたとしても、高校入試・大学入試という同質なものさしにぶつかる瞬間があるでしょう。

ここをどう設計するかも、重要なポイントです。

ジョンズ・ホプキンス大学らのSMPY(数学的早熟青年縦断研究)は、中学段階で識別された数学的才能が、50年後の創造的業績や専門的達成と強く相関することを繰り返し示しています(Lubinski & Benbow, 2006)。韓国・シンガポール・米国では、高大への接続や研究インターンも制度化されつつあります。

スーパーサイエンスハイスクール(SSH)やグローバルサイエンスキャンパス(GSC)のような国の事業はありますが、「個別に最適化された学習履歴」が大学入学者選抜への反映の度合いはいまだ限定的です。高校の探究学習をどう評価するかも、今後の焦点のひとつです。

【ポイント7〜10】「公平さと検証」をめぐるポイント

最後の4つのポイントは、「ギフテッド教育は一部のエリートだけのためのものなのか」「本当に効果があるのか」という、制度全体の正当性にかかわる観点です。

ポイント7|エリート主義への批判とバランス

ギフテッド教育は、一部で「エリート主義だ」という批判を受けてきました。

英国では2010年の政権交代後、国家プログラムそのものが廃止された経緯があります。

実際に、アメリカのニューヨーク州のギフテッドプログラムの選抜プロセスでは、人種的マイノリティや貧困層の家庭の子どもたちが不利な選抜であったなどの批判も起きました。

一方で、特別な教育的ニーズに応えること、そしてポイント1で説明した識別のしくみをうまく設計することができれば、「必要な支援」という面でギフテッド教育を設計していくことができるでしょう。

OECDは2023年の報告書『Equity and Inclusion in Education: Finding Strength Through Diversity』のなかで、ギフテッドを「多様性の6次元」のひとつに位置づけ直しました。排他的な選抜ではなく、インクルーシブな枠組みのなかでの才能支援を推奨する方向です。

公立校の「同質性規範」と、「特別扱い」を避ける文化が、制度設計の制約として働いています。そのため日本の政策文書では、「困難さ+才能」の両面を強調することで、保護者や教育委員会のあいだの合意形成を図る戦略が取られていると言えます。

ポイント8|不登校・学校不適応との交差

日本では不登校の児童生徒数が年々増え、2022年度には約34万人に達しました。

このうちどれくらいが才能面のニーズを抱えているかは、まだ統計として把握されていません。

米国のNeihart(1999)やPeterson(2009)は、ギフテッドの子どもが学校からドロップアウトしていくリスク要因を整理しました。学校環境と教育的なニーズのミスマッチが主な要因であり、「怠けている」「やる気がない」という見方は、的外れだと指摘されています。

文部科学省の推進事業に採択された実証研究団体の報告書では、不登校と才能のニーズが顕著に重なる事例が繰り返し報告されています。今後、全国規模の統計的把握が課題です。

誤解されやすいポイント

「ギフテッドだから学校に行けない」と単純に結びつけてしまうのは避けたいところです。

実際には、感覚過敏、いじめ、先生との関係、家庭の状況など、複数の要因が重なって不登校につながることがほとんどです。

背景には、子どもの才能や、その裏にある困りごとに、学校の環境が対応しきれていないケースが多くあります。

だからこそ、「学校に行かない」という選択も、環境を整え直す一つの方法として検討してみるという視点を持つと、選択肢が広がっていきます。

ポイント9|ジェンダーと文化的なマイノリティ

「ギフテッド」と呼ばれる子どものなかにも、見つけられやすい子と、見つけられにくい子がいます。

その差は、性別・地域など、さまざまな社会的な要因に沿って生まれています。

日本ではあまり言語や人種の違いによるマイノリティについて考える機会も多くないと思いますが、世界では人種・文化的な背景によってギフテッドの識別のしやすさに影響が出ているケースもあります。

STEM領域における女子の過少識別、在米のBlack・Latinx・先住民族児童の過少識別は、米国で30〜50%規模との推計もあります(AAUW, 2020/NSF, 2023など)。是正策として、ローカル・ノーム、教員研修、奨学金、進路ロールモデルの可視化などが組み合わされています。

日本では、理数系における女子比率の偏り、外国にルーツを持つ児童生徒、都市部と地方(離島・中山間地域)の格差が、指摘されています。ジェンダーの視点を持ったギフテッド研究は、2020年代に入ってからようやく本格化し始めたところです。

ポイント10|ギフテッド教育の効果と評価の仕方

最後は、「そもそもギフテッド教育は効果があるのか?」という観点です。

ギフテッド教育を倫理的・規模の制約からランダム化比較試験(RCT)で検証するのは難しいことが知られています。代わりにSubotnik, Olszewski-Kubilius, Worrell(2011)の『Rethinking Giftedness and Gifted Education』は、「才能発達(talent development)」の枠組みで、長期の縦断研究を蓄積することの重要性を提言しました。

文部科学省の推進事業で実施されている実証研究は、各団体が報告書を公開していますが、共通の評価指標による比較や、複数年度にまたがる追跡はまだ途上です。「日本版SMPY」とも呼べる縦断研究の構想は、今後の政策的課題です。

世界と日本の差は、どこから生まれているのか

少しボリューミーな10のポイントでした。

日本も2021年以降、政策はゆっくりと、でも確実に動いてはいます。ただ、世界のギフテッド先進国と比べると3つの点での違いもあります。

法律の基盤がない

米国のJavits法、韓国の英才教育振興法のように、「才能教育とは何か」を定める国の法律が、日本には存在しません。

すべてが既存の学校教育法・施行規則の組み合わせで運用されています。

用語の曖昧さ

行政は「特定分野に特異な才能」という用語を使い、学会・当事者・メディアは「ギフテッド」を使っています。

この用語の二重化が、議論のわかりにくさの一因になっています。

また、メディアで取り上げられる「ギフテッド」は、本当の困りごとよりも才能にフォーカスされることが多く、ギフテッド教育の必要性について多面的に取り上げられることはほとんどありません。

アメリカでは、「ギフテッド」という言葉は教育的・心理学的概念として浸透していますし、日本とは比べ物にならないくらいエビデンスレベルの高い研究が実施されてきています。

日本でも「ギフテッド」という言葉を使用していけばいいと思います。

まとめ:我が子の子育てに活かせる3つのこと

ここまでは制度の話が中心でした。

最後に、この10のポイントを「わが家の子育て」について考えるときに、特に意識しておきたいことを3つに絞ってお伝えしようと思います。

1. 「日本が遅れている」は、半分正しく、半分違う

たしかに法律・教員養成・2E対応では、先行する国に学ぶべきところが多くあります。

一方で、「困難と才能の両面を包摂する」という日本の政策スタンスは、エリート主義批判を避けつつ包摂的な制度を設計するうえで、国際的にも注目されうる切り口です。

2. 「見つけてもらえない」のは、親のせいではない

IQ一本の識別、教員の未研修、2Eの制度的なすきまなど、どれも国際的な研究が何十年もかけて議論してきた、大きな課題です。

学校が合わなかったり、子どもが行き渋りになったりするのは、制度の側がまだ整っていないからであって家庭での育て方の問題ではないのです。

ギフテッド教育は、わが子の違いを弱みにしないための、とても重要な仕組みです。

世界と日本の状況を知ることは、ギフテッドの子どもたちの居場所を広げるためのヒントを得ることだと、私たちは考えています。

この記事が、これからの日本のギフテッド教育を設計していくヒントになれば嬉しいです。

参考文献・情報源