発達障害の子どもを育てていると、「もっとがんばらなくちゃ」「ちゃんと支えなくては」と、自分に厳しくなりすぎてしまうことがあるかもしれません。
子どもの特性に合わせた配慮や支援、周囲の理解を得るための対応、将来への不安…。
日々の生活の中で、親として常に緊張感を抱えながら走り続けているような感覚になることもあるでしょう。
しかし、親が疲れきってしまっては、子どもを支える力も失われてしまいます。
親だって、疲れて当然!この記事では、日常生活に取り入れやすい親御さんのためのセルフケアの方法について専門家がご紹介していきます。

執筆:日塔 千裕
公認心理師・臨床心理士
発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。
親も疲れることは、当たり前!弱さを見せることは悪いことではない
親だって、一人の人間。日々の生活の中で疲れることはあたり前なんです。
そして、疲れたら、休むことは必要不可欠!
「そんなこと言ったって…!」という声が聞こえてきそうですが、まずは疲れてあたり前な状況を再確認してみましょう。
発達障害の子どもは、感覚の過敏さやコミュニケーションの難しさ、突発的な行動など、周囲との違いからさまざまな場面でストレスを感じやすくいところがありますね。
発達障害のない子どもであっても、子育ては相当なエネルギーを要するものですが、発達障害の子どもを育てている親御さんはそれ以上に多大なエネルギーを費やしていることが多いでしょう。
学校や療育機関とのやりとり、家族間の調整、社会の偏見と向き合うこと…。これらは心身に大きな負荷を与えます。
けれども、逃げ出すことも放棄することもできないのが、子育てですね。
「私ががんばらなきゃ」「親なんだから当然」と自分に言い聞かせ、無理を重ねてしまいっていることもあるでしょう。
ですが、完璧な親など存在しません。そして、子どもにとって本当に必要なのは、疲れを抱え込んだ親ではなく、笑顔で一緒に過ごしてくれる親です。
自分が「疲れている」と気づいたとき、それは「弱さ」ではなく「ケアが必要なサイン」です。まずは、そのサインに気づき、自分をいたわることから始めましょう。
セルフケアとは“自分の心を守ること”
セルフケアとは、単にリラックスする時間を持つことだけではありません。
自分の感情を認識し、心のバランスを保ち、長期的に健やかでいられるよう自分自身を大切にすることです。
ここでは、日常に取り入れやすい具体的なセルフケアの方法をご紹介していきます。
それぞれのご家庭の状況により、取り入れられるもの、取り入れることが難しいものなどあると思います。
ちょっとしたことでも、“自分を労わる時間”を取り入れる視点で考えてみてください。
1. 小さな「一人時間」をつくる
子育てに追われていると、自分の時間は後回しになりがちです。
仕事もしていて、育児、家事となると、なおさら自分の時間を持つことは難しいというのが実情ですよね。
しかし、ほんの1日5分でも構いません。毎日が難しければ、週に1回、月に1回なども方法です。
短時間で取り入れることを考えるなら、「好きなお茶をゆっくり飲む」「ちょっと贅沢なスイーツを一人で食べる」「お気に入りの音楽を聴く」「深呼吸をする」といった小さな時間を意識的に作りましょう。その数分が、心を整える大きな助けになります。
たかが数分ですが、ちょっとしたリセットタイムは、1週間、1か月と積み重ねると、全く取り入れていないゼロの状態と、わずか数分でも取り入れている状態とでは変わってきます。
また、週に1回や月に1回など、ある一定の頻度で取り入れることを考えるのであれば、「散歩に行く」「カフェでゆっくりお茶をする」「図書館で静かに本を読む」「ちょっとオシャレして出かける」など、少しまとまった時間で外に出られるとよいでしょう。
子どもは、パートナーなど家族にお願いしたり、子どもが療育や習い事に行っている時間を活用したりできるといいですね。
子どもがいると難しい、一人の時間を作ることを意識してみましょう。
2. 誰かに話す
気持ちを誰かに「話す」ことは、心の中の重荷を軽くする第一歩です。
パートナー、友人、支援者、同じ立場の親…。
「こんなことで悩んでいいのかな」と思うことでも、口に出すことで気持ちが整理され、安心感が得られます。
支援グループやSNSなど、匿名でつながれる場所もあります。同じような経験を持つ人との交流は、自分だけではないと感じられる心の支えになります。
身近なパートナー・家族・友人に話せるに越したことはないですが、話せる人も何人か話せる相手を作っておくことは大切です。
3. できたことを見つめ直す
「~ができなかった」「また怒ってしまった」と、できなかったことばかりに目を向けがちですが、あえて「今日できたこと」を振り返ってみましょう。
たとえば、「朝ちゃんと起きられた」「子どもが笑ってくれた」「夕食を作った」…。どんなに小さなことでもいいのです。それはあなたが今日も子どもを支えた証です。
日記やメモに書いておくと、あとから見返したとき、自分の頑張りが可視化されて自信にもつながります。
発達障害の子どもへのかかわり方でも、「できていることをほめる」ということを言われることは多いでしょう。
これは、親自身に対しても、同じことが言えます。
夫婦間で、できたことを認める声かけをし合える関係性ができると理想ですが、それが難しくても、セルフケアという点では“自分で自分をほめる”ということがとても大切になってきます。
自分では“あたり前”と思うことも、「あたり前が今日もできた!」ということで自分に〇をつけてあげましょう。
4. 他人と比べない
他の子どもと比べてしまったり、周囲の家庭と自分を比べてしまうことは、どうしてもあります。これは、発達障害ではない子どもを育てている場合でも、よくあることです。
子どもに発達障害があると、「発達障害でなければ…」などと他の子どもと比べてしまうこともあるかもしれません。
しかし、発達障害のある子どもには「その子なりのペース」があります。他人との比較は、あなたの努力を否定することにもなりかねません。
「うちの子にはうちの子の育ち方がある」「私には私のやり方がある」と自分に言い聞かせましょう。比べるべきは「昨日の子ども」「昨日の自分」です。
子どもは、昨日できても、今日はできなかったり…、ときれいな一直線で成長することはありません。
それでも、「今日はこれはできた!」というものは必ずあるはずです。
1日単位ではできないことに目が行きやすいと思いますが、半年、1年という長期的な視点で見ると、子どもなりのペースで成長しているはずです。
5. 専門家に頼ることをためらわない
育児や家庭のことを「自分(家庭)でなんとかしなければ」と思い込んでいませんか?
でも、誰かに頼ることは、甘えでも手抜きでもありません。
発達障害に理解のあるカウンセラーや福祉職員、児童発達支援センター、親の会など、頼れる場所は意外と多く存在します。自分一人では抱えきれないことを共有できる環境を探し、積極的に利用しましょう。
近年は、専門的な相談でも、電話相談やSNS相談など、平日日中の時間帯に出向いての対面での相談以外の相談窓口も増えていますので、ご自身の生活スタイルに合わせて、利用しやすい場所を見つけておくことも方法です。
「自分を大切にする」ことが子どもへの最大の支援になる
子どもを支えるためには、まず親自身が安定していることが大切です。
感情的に不安定だったり、エネルギーが枯渇してしまっている状態では、適切な対応が難しくなりますし、子どももその不安を敏感に感じ取ってしまいます。
「子どものために」と思って努力する気持ちは尊いものですが、それと同じくらい「自分のために」時間とエネルギーを使うことも大切です。
それは決して自己中心的なことではなく、「家族全体の安定」にもつながります。
おわりに
目に見えない苦労、誰にも気づかれない努力、声にならない不安…。
そのすべてを抱えながら、今日も子どものそばにいる。その事実だけで、あなたは素晴らしい親で、十分すぎるほどがんばっていることでしょう。
完璧な親なんていない!
できない日があってもいい!
一人でがんばりすぎない!
疲れたときは、どうか自分を労わってあげてください。
そして、忘れないでください。「あなたの笑顔が、子どもにとってのいちばんの安心」だということを。