知的障害や発達障害があるお子さんを育てる中で、検討しなければならない1つとして挙がってくる可能性があるのが、「(障害者)手帳の取得をどうするか」ということがあります。
療育を受けている(児童発達支援事業や放課後等デイサービスを利用している)場合、受給者証(通所受給者証)と言われるものを持たれているかと思います。
これは、児童発達支援事業や放課後等デイサービスを利用するにあたって「このサービスを月に◯回利用できる」という証明で、お住まいの市区町村が発行しているものになります。
児童発達支援事業・放課後等デイサービスといった福祉サービスを受けるために必要な証書になり、今回説明する(障害者)手帳とは全く別物になります。
この記事を書いた専門家

日塔 千裕
公認心理師、臨床心理士
発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。
手帳の種類
いわゆる障害者手帳と呼ばれているものは、正式には以下の3種類あります。
01. 身体障害者手帳
02. 療育手帳
03. 精神障害者保健福祉手帳
すべて自己申請制なので、いずれかの手帳の取得を考える場合には、各窓口へ親御さんを含む、ご自身で申請いただく必要があります。
01. 身体障害者手帳
身体障害者手帳は、手足や視覚・聴覚、内臓等の身体の機能に一定の障害があると認められた人に交付される手帳です。
子どもの場合、成長により身体機能の変化する可能性はあるものの、その成長を加味しても一時的なものではなく永続的な障害と認められる場合のみに交付されます。
そのため、医療にかかり、医師やケースワーカーなど専門職の方と繋がっていることが多く、その中で必要に応じて身体障害者手帳の話をされることが多いので、今回の記事では、身体障害者手帳に関する詳細な説明は割愛させていただきます。
02. 療育手帳
療育手帳は、知的障害のある人に交付される手帳です。
3種類の手帳の中で唯一、判定基準などが全国統一ではなく各自治体(都道府県や政令指定都市)が定めています。
もちろん18歳未満の時点で知的障害があるということと、知能検査と保護者の方に生活状況の聞き取りを実施して知的障害の程度の確認をするということに関しては、大きな違いはありません。
ただ、その結果である手帳の等級の分け方は、2段階のところもあれば、6段階ほどに分けているとこともあるなど、自治体によってさまざまです。
また、自治体によっては、療育手帳という名称を用いず、独自の名称を設けているところもあります。
例えば、青森県・名古屋市では「愛護手帳」、東京都・横浜市は「愛の手帳」、埼玉県は「みどりの手帳」という名称になっています。
療育手帳の取得を考える場合、主たる窓口は児童相談所です。
自治体によって、まず申請が市区町村の役所の窓口という場合もあるため、詳細な手続き方法はお住まいの自治体名と療育手帳というキーワードで検索して、自治体のホームページをご確認ください。
また、申請の際には原則的に知能検査を実施する自治体が多く、児童相談所で実施した知能検査の結果でしか申請を認めない場合も多くあります。
つまり、直近で医療機関等の別の機関で受けた知能検査の結果を持って行って、療育手帳の申請に活用するということができない場合もあるため、療育手帳の申請と知能検査等の心理検査の受検を考えている場合には、事前に問い合わせて確認してください。(他機関の検査結果の持ち込みができる自治体もあります。)
03. 精神障害者保健福祉手帳
精神障害者保健福祉手帳は、精神障害がある人を対象とした手帳です。
うつ病や統合失調症、てんかん、高次脳機能障害などすべての精神障害が対象となり、その障害によって長期にわたり日常生活・社会生活に制約があると認められた場合が対象となります。
その中に、発達障害も含まれており、発達障害により、日常生活・社会生活に制約がある場合は対象となる場合があります。
ただし、精神障害者保健福祉手帳の申請をする場合には、その精神障害での初診日から6か月以上が経過していることが必要となります。
つまり、発達障害のことで医療機関を受診した最初の日から6か月以上が経過して、初めて申請ができるのです。
精神障害者保健福祉手帳を申請するにあたっては、診断書も必要となるため、発達障害でかかっている、かかりつけ医に相談しながら進めることがよいでしょう。
手帳を取得するメリットとデメリット
メリット
3種類の手帳を所持していることで受けられるサービスは概ね共通しています。ただ、精神障害者保健福祉手帳は一部対象外となっているサービスがあります。
メリットその1
特に子ども期に手帳を持つメリットとしては、金銭的な面での割引サービスを受けることができるということが中心になるように思います。
<手帳により受けられるサービス(一部)>
- JR・飛行機・バス等の公共交通機関の割
- テーマパーク・映画館・美術館・博物館等の割引
- 携帯電話の契約における、基本使用料や各種サービス使用料等の割引
- 水道料金の一部減免
- 所得税・相続税の障害者控除
自治体やサービスごとに、条件や割引率は異なりますので、詳細はお住まいの自治体のホームページや受けたいサービスを提供している場所のホームページなどをご確認ください。
メリットその2
金銭面以外のメリットとしては、進学や就職の選択肢の幅を広げるということになります。
手帳を活用し、サポートを受けながら進学・就職するという方法があります。
お子さんが生活しやすい環境を整えるという観点で、手帳を所持していることでサポートを受けるための一助となる可能性があります。
進学先・就職先によっては、手帳を所持していることが条件となるものもあるため、選択肢の幅を広げるということになるのです。
<進学先例(一部)>
- 特別支援学校
- 特別支援学校の職業技術科や職能開発科等:地域により、ない場合もあります。
- サポート校(高校):通信制の学校にプラスして入学する必要あり。手帳の有無が条件になることは原則ないが、障害への理解も学校により差があるため、ホームページの確認や説明会等でよく話を伺うことをお勧めします。
<就職例(一部)>
- 障害者雇用
- 就労移行支援
- 就労継続支援A型
- 就労継続支援B型
デメリット
手帳を所持すること自体にデメリットはないです。
ただ、先に挙げたような進学・就職先のように、「“障害者”としての選択肢しかないのではないか」とか「その道しか選べなくなるのではないか」ということを不安に感じられる親御さんは多いです。
また、手帳を取得することで、はっきりと“障害者”ということを突き付けられてしまうという心理面の影響はあるかもしれません。
手帳を所持しているというのは、申告しなければ伝わりません(将来的にマイナンバーの管理における状況がどのようになるかにより、状況が変わる可能性はありますが)。
手帳を所持しているから、必ず手帳を利用した進学・就職をしなければならないということではないので、お子さんの状態によって、手帳を活用した進学・就職を行うか、手帳を活用せずに進学・就職を行うか、「選択肢が広がる」ということなのです。
手間という点では、手帳の種類やその等級によっては、数年に1回ですが手帳の更新手続きが必要な場合があります。
手帳の取得するタイミング
手帳取得にあたっては先にお伝えした通り、自己申告制であり、必ず取得しなければならないというものではありません。
お子さんに合った環境の選択肢を広げることにはなるため、お子さんの状態を見ながら、申請するタイミングを考えられるとよいでしょう。
「この時期では絶対に申請・取得しなければならない」というのもないのです。
◆第1段階
主に小学校卒業までの間は、手帳取得における恩恵は金銭的な面での割引サービスが中心となります。
そのため、よくお出掛けをする場合や助成を受けたいという場合には、すぐに申請手続きを進められるとよいでしょう。
◆第2段階
中学校で特別支援学校への進学も選択肢として考えられる場合には、小学校5年の終わり~小学校6年の始め頃には手帳取得に向けた申請手続きを始めていきましょう。
手帳の申請から手帳が届くまでには1~2か月かかる場合があり、申請までの段階でも児童相談所や医療機関の予約等で時間がかかる場合がありますので、手帳取得までには総合的に数か月かかると見込んで動き始めることが必要です。
◆第3段階
特に療育手帳の対象となる可能性がある状態の場合には、この段階で対象となるかを再度確認する。
対象となる場合は取得することをお勧めします。それは中学1年時~中学2年の始めです。
知的能力は概ねこの頃には固定化すると言われています。
小学校の時期は成長に伴い、知的能力が多少変動するため、グレーゾーンと軽度知的障害の境界に位置していたような場合はすぐに取得するかを判断しなくてもよいと私は個人的にはお伝えしてきました。
それは親御さんの心理面の影響を考慮してのことです。
ただ、知的能力が概ね固定化したこの時期では、中学校卒業後の進路の検討にも影響するため、直前で慌てないため、また選択肢を増やすための準備を早めにしておけるに越したことはないと思います。
進学先の検討の際に、進学先の情報も集めないといけない、話も聞きにいかないといけないとなった状態で、療育手帳の取得もとなると、時間的にも精神的にも負担が大きくなるため、中学1年の頃から、遅くとも中学2年の始め頃には取得の準備を始めることをお勧めします。
おわりに
以上でご紹介したように、手帳の取得については、お子さんの状態や将来の選択肢を広げるために検討することができます。
金銭的な支援や進学・就職の選択肢の幅を広げるなどのメリットとして活用することで、お子さんがより生活しやすい環境を整えることができます。
お子さん自身の意思も尊重しながら、悩む場合は専門家に相談するなどして進めていくことが望ましいでしょう。