クレジットカード、交通系ICカード、QRコード決済などさまざまな支払方法が行えるようになり、現金を使用する頻度が減っている方も多いことでしょう。
特にコロナ禍を経て、キャッシュレス化は急激に進みました。
大人にとっては便利になった反面、子どもにとっては金銭感覚を養う機会の損失ではあるのです。
このような時代を生きる子どもたちは、キャッシュレスをあたり前として生活させてよいのか、お金の価値や適正な金銭感覚を養うためには何が必要なのか。
この記事では、キャッシュレスのメリット・デメリットを考えながら、子どもたちの金銭感覚を養うために必要なことを解説していきます。
この記事を書いた専門家
日塔 千裕
公認心理師、臨床心理士
発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。
目次
キャッシュレス化の落とし穴
「お金を使っている感覚」のわかりにくさ
「キャッシュレス」という言葉は、その名の通り、現金を介さない支払方法です。
つまりは、目に見えない中で支払いが行われているため、支払っているという感覚が得られにくい支払方法ですよね。
大人でも、クレジットカード決済でリボ払いにして、気付かないうちに借金がかさんでいるという状況が起きている場合があります。
その時は、1つひとつの商品やサービスを「この値段ね」と確認して購入していたとしても、支払っているという実感がわきにくい状況ですし、「今月の支払合計はいくら」と、全体として意識的に考えなければ認識できにくいものです。
大人でもこのような状況に陥る人もいる中で、子どもではどうでしょうか。
支払っている感覚が得られにくい、目に見えない支払いという状況においては、高度な想像力が求められます。
もちろん、月間の支払い状況を把握するには、記憶力や計算能力なども必要ではあるのですが、現金を介さない支払い方法の中で「お金を使っている」と認識するためには想像力が必要なのです。
カードがあれば「いくらでも買い物できる」
まだ発達途上の子どもは、想像力も当然ですが、未熟な状態です。
お子さんの年齢や特性によって程度は異なりますが、経験のないことを想像する力はまだまだ未熟なところがあると考えておきましょう。
たとえば、ICカードで交通機関の利用です。
このICカードでは、自動販売機で飲み物を買うなどができてしまいます。
あたり前のように「昔から交通系のICカードを使ってきたよ」とあるお子さん。
そして、親御さんが、「今月はもう買ったから、今日は買わないよ」ということを話していたら、お子さんは「じゃあ。このカード使えばいいじゃん!」と。
お子さんにとっては、欲しいものがいくらでも買える魔法のカードだったのです。
その裏で、見えないところでお金が動いていて、支払いをしているということは、お子さんにとっては思ってもみないことということがわかります。
子どもにとっては、現金での支払い経験がないと、カードを使う時のお金の動きが実体験として把握しにくいのです。
大人にとってはあたり前のように利用しているネット決済、クレジット決済、QRコード決済…。
それらのキャッシュレス決済の裏にしっかり親が働いて稼いだお金が入っているということまでお子さんの想像力は及びません。
子どもにキャッシュレスを利用させる前に
まずは見える状態で実体験を
子どもは想像力の未熟さはあるものの、大人であっても全く体験のしたことがないことを想像するというのは結構難しいことかと思います。
想像力が未熟な上に経験もないとなると、想像が及ばないということは、容易に理解できるのではないでしょうか。
そのため、お子さんにはキャッシュレスに慣れさせる前に、まずはしっかりと見える状態で体験してもらうということがとても大切です。
経済の流れのすべてを体験すること自体は無理ですが、そもそも“物を受け取る対価としてお金を払う”という買い物の基本原則。
これですら、キャッシュレスで現金の受け渡しがない状態のみを経験していると、支払っているという実感が得られず十分な理解に至らない場合があります。
子どもには、「欲しいものを手に入れる(買う)ためにお金を払う」という現金で支払う体験が重要です。
低年齢のときには、【店員さんにお金を渡して商品を受け取る】という体験ができるとなおよいです。
AI化が進み、人を介する機会は今後より減っていくことになりますが、配達や品出しなど完全に人の手がゼロになることはありません。
人を介して、物(商品)が移動したということ、お金を払ったから物(商品)がお店(店員さん)から自分のところに来たということが、人を介して支払うことでより体感しやすくなります。
買い物の全てを、人のいるレジで、現金によってする、ということではありません。
(家計のほとんどはキャッシュレス決済を利用してもよいのですが、)お子さんの体験のために、お子さん自身が欲しいお菓子、オモチャなど自分の買い物の分だけは、現金を渡して自分で支払いをさせてみるといった機会を設けてみましょう。
初期の金銭感覚を養うためにも現金活用を
まだ数の概念の理解ができていない時期のお子さんが、たとえば、お年玉をもらったときです。
1000円札1枚が入っているよりも、100円玉が10枚入っていた方が喜んだ、といった経験はないでしょうか。
1000円札1枚と100円玉10枚では、お金としての価値は同じはずです。
大きくなれば数の概念が獲得でき、数字の大小で価値を判断できるようになります。
しかし、概念として理解したり数字で視覚的に理解するというだけでなく、現金の重さに触れ、触覚でも体験しておくことも、大切な感性を養うことになるのです。
硬貨は1円玉が軽くて、500円玉は重いと、値段の違いにより重さの違いを手に持っただけでも体感しやすくなります。
重いから値段も高いということを伝える必要はありません。
現金を手に持つ経験をすることで、無意識に重さを実感するということがお金の大切さ、初期の金銭感覚を養うことに繋がります。
硬貨の枚数が増えれば、値段も高くなっているということも実体験できます。
数字を見て視覚的に概念として頭で理解するだけでなく、手で触れて重さを感じる。
場合によっては硬貨の匂いといった嗅覚も働いているかもしれません。
をこのようなさまざまな感覚にアプローチする手段が、やはり現金を活用することなのです。
このように、さまざまな感覚にアプローチしていくことで、想像力を育むことにも繋がり、初期の金銭感覚を養うことにもなるのです。
お小遣いをあげるとなるとまずは現金だと思うので、お子さんが現金を利用する機会はゼロにはならないと思いますが、どんなにキャッシュレスの世の中になったとしても、お子さんの金銭感覚を養うには現金が重要な役割を果たしています。
上ではお年玉の例でお伝えしましたが、お子さんがお手伝いをした時や目標とする成績が出た時などに、「努力の対価」としてお小遣い(現金)を渡すことで、お金を支払う時でも「この金額を手にするのはこんなに大変なのか」という意識が生まれてくるはずです。
現金活用しにくい場面は視覚化を
そうは言っても、ネットでの購入機会も多い今の世の中では、お子さんの買い物だけに特化して考えたとしてもすべて現金でというのは難しいのが現状でしょう。
お子さんの欲しいものでネットで購入したものは、お小遣い帳などに記載することでお子さん自身が見て分かる状態にできるとよいです。
お小遣い帳は、ネットで購入したものに限らず、お小遣いを渡している場合には書くようにするとよいでしょう。
計算スキルや全体の金額を把握する力、どうお金を使うかというプランニングスキルなどへのアプローチにも繋がります。
日本ではあまりお金の話を子どもの前ですることがよくないとか、夫婦間でも話しにくいなどお金の話は家庭内でもややタブー視されている傾向も否めません。
「お金がない」などネガティブな話ばかりになってしまうのは好ましくはありませんが、お子さんの金銭感覚を養うためにはお子さんの買い物分やお小遣いなどの部分的であっても多少はお金の話題を取り上げることも必要です。
その話題として取り上げやすい方法がお小遣い帳でもあります。
お小遣いの使い方は色々です。お小遣い帳を使って、子どもがどんな計画をしているのか、またどんな使い方が子どもに合っているのかなど話してみてください。
・一気に欲しいものにつぎ込んで、次のお小遣いがもらえるまでは我慢する
・期間内で使い切るように計画的に少しずつ使う
・高い物を買うために一部は使わずに貯める
どのようなお金の使い方をするかは正解はありません。
前借りなどで親に借金を増やしていくようなことを認めてしまうのは望ましいとは言えませんが、お小遣いをいくらと決めたら、その中でやりくりする範囲であれば上記のどのようなスタイルでもお子さんに任せましょう。
お小遣い帳を通して、お金の話題を親子ですることで、お子さんの金銭感覚を養っていくことに繋がります。
おわりに
キャッシュレス化が急激に進んだ今、大人にとっては便利な世の中になってきていますが、お子さんにとってはそれが弊害となることもあるということをお伝えしました。
視覚、触覚などさまざまな体感を通した経験が想像力を高めることに繋がり、金銭感覚を養うことにも繋がってきます。
そのために、子どもの頃には、まずはしっかり現金での支払いを体験する機会を設けていくことが重要です。
お子さんの欲しいものを、お子さん自身が購入するというタイミングを作り、現金に触れる体験を大切にしてみてください。
また、親子でのお金の話をタブー視せず、お小遣い帳を通してお金の使い方の話を取り入れる機会も設けられるとよいですね。
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