登校渋りや不登校は、その言葉を知らない人はいないほど、今の時代では珍しくない問題と言えます。
小中学校においては、どのクラスにも一人ずつ存在するぐらいの割合で起きています。
その一方で、その要因や必要な対応はケースバイケースと言えるほど多様なため、当事者の子どもや保護者は悩みや困り感を抱えていることと思います。
そこで、この記事では、登校渋り・不登校の原因や対応方法、無理やり連れて行ってもいいのか、など、よくあるご相談内容を7つのQ&A形式にしてご紹介していきます。
この記事を書いた専門家
杉野 亮介
公認心理師、臨床心理士
教育支援センター、スクールカウンセラーとして教育分野で不登校支援等に携わった後、児童福祉施設で心理士として20年間以上従事。児童虐待を受けた子どもや発達凸凹のある子どもたちへの心理的支援、生活のケアを行う。
目次
はじめに
「不登校」とは、子どもが学校に籍があるにもかかわらず学校に行かない状態の総称であり、行きたくても行けない子どももいれば、自分の意思で行かないという選択をしている子どももいますし、自分が学校に行きたいのか行きたくないのか分からないという子どももたくさんいます。
一言で「不登校」と言っても、その状態像は様々です。
子育て支援の現場でも、「不登校で困っている」という相談がご家族や学校関係者から入っても、それは相談の入り口であって、その後の相談や支援の展開は様々です。
そのため、不登校にはこうしたら一発で解決なんていう方法はありませんし、Aくんに有効だった方法がBさんには逆効果だったということも珍しくありません。
今回は行き渋りや不登校に関して、相談現場等でよく聞かれる質問を中心に記事を構成していますが、その質問や回答が、全ての読者の方のニーズに応えていたり、即効性のある解決策を提示しているとは限りません。
あくまでも、基本的な考え方や姿勢だとご理解いただけたらと思います。
行き渋りや不登校問題に関するQ&A
不登校や行き渋りの原因は?
質問1:子どもが学校に行かなくなりました。一刻も早く、原因を解明して、学校に行けるようにしたいと思います。原因は何でしょうか?
回答1:
子どもが不登校になった時には、誰もがこう思うのではないでしょうか。
不登校という問題が起きているということは、必ず原因があって、その原因を解決すれば、以前のように子どもは学校に行くだろうと考えるのが、一般的であると思います。
子どもが学校に行きたがらない、あるいは、行き渋るとなると、考えられる要因としては大ざっぱに言うと、
- 学校生活での問題(友人関係、先生との関係性など)
- ご家族が抱えている問題(親子間や家族間の関係性がうまくいっていない)
- 子ども本人の性格特性や心理状態が関係している問題(いわゆる発達障害的な特性があるが故に周囲とうまくいかないことがあったり、思春期であれば精神障害の発症に伴う症状が故に環境に適応できなくなることも)
等があると思います。
もちろん、これ以外の個別的な要因があるケースもあります。
そして、多くの場合は、単一の分かりやすい原因があるわけではなく、色々な要因が絡み合っており、これが原因ですと簡単には言いきれないことがほとんどです。
また、万が一、明確に原因が分かったとして、それらの問題や原因を突き止めて解決することが不登校支援かと言うと、多くの場合はそうは行きません。
原因や要因となっていることを考えることは今後の支援等の方向性を考えるうえでは有効です。
しかし、原因を突き止めても、子どもが登校するか否かは別問題であることがほとんどです。
例えば、子どもが友だち関係でうまくいかないことを悩んでおり、学校に行かなくなった。
そこで、先生が介入して、うまくいかない友だちと話し合いの場を持ってもらったり、それらの友だちと別のクラスにしてもらったとします。
しかし、多くの場合は学校に戻るということにはなりません。
親も先生も「せっかく配慮したのに」と思っても、子どもは動いてくれないということがよくあります。
不登校と向き合うにあたっての第一歩は、「不登校の原因を突き止めたら、問題は解決する」という思い込みを捨てることです。
不登校や行き渋りによる学習の遅れが気になる
質問2:いつまで経っても子どもが学校に行きません。このままでは学習の遅れも気になります。いつになったら行くのでしょうか?
回答2:
不登校の原因探しをしてもあまり意味がないと認知してもらった後に、保護者の方が気になるのは、「いつになったら行くの?」というところで、不登校の支援をしていると、保護者のその思いの強さをひしひしと感じます。
結論から先に言うと、多くの場合は、登校にこだわることを親子ともにやめるところから、回復の道のりが始まります。
学校に行くか行かないかの二択ではなく、学校に行かない(あるいは、行けない)という状態を受け入れることが必要です。
もちろん、それまで学校に通うことが普通だと思っていた人にとっては、この考え方を受け入れるのには時間もかかりますし、葛藤もあります。
それでも、学校に行くか行かないかの二択で考えているうちは、学校に行かないという状態は失敗であり続け、親子ともに苦しみ続けてしまいます。
不登校になっている現状を受け入れ、今からどうしていくかを一緒に考えていくことで、一歩ずつ前に進むことができます。
再登校することが必ずしもゴールでは無いという考えを、子どもと保護者とで共有することが必要です。
質問3:小学校の途中から不登校になり、中学校もほとんど学校に通っていません。家でも勉強しているわけではなく、学力はかなり低いように思います。このままでは、中学校卒業後の進路はどうなってしまうのでしょうか?
回答3:
義務教育修了後の進路を考えた際、特に学力面がネックになるだろうと考えて、どんな進路も選ぶことができないのではないかという不安が、小中学校で不登校状態にある親子の大きな不安だと思います。
また、高校在学中に不登校になり、高校中退するようなケースでもやはり、進路選択ということが不安の中心となります。
ある程度の地域差もありますが、基本的には選択肢は、皆さんが思っている以上にあります。
今は不登校状態になることが珍しくない時代ですので、多くの高校や専門学校では、中学校時代に不登校だったからという理由で、不合格になることはありませんし、入学後も、気にかけてみてくれたりします。
毎日通学することが難しいと感じるのであれば、通信制という選択肢もあります。
もちろん、最低限度の学力は必要となりますが、入試自体が学力を問わない所も多く、作文を書ける程度の読み書きをする力があれば、ほとんどの場合は問題ありません。
また、自分が行きたい進路を見つけることで、勉強に手をつける子どもも多く見られます。
このように選択肢が一気に増える、中学校卒業のタイミングが不登校状態から脱する大きなチャンスと言えるでしょう。
実際に不登校支援をしていても、中学校までは不登校で高校入学を機にすんなりと登校するというケースが多いように思います。
このタイミングで自分が希望するような進路を選ぶことができるかどうかに関しては、学力は皆さんが思うほど大きな問題ではありません。
そして、学力よりも大切なことがあります。
どの進路を選んでも、その頻度は違えど、登校したり、スクーリングに行ったりして、基本的には家の外に出る必要があります。
学校には行けないけれど、買い物には行けるとか、塾には行ける等の家の外に自分の意思で出掛けることができる状態まで回復していることが非常に大切だと言えます。
逆に言えば、完全なひきこもり状態になってしまっては、進路選択がなかなか難しくなってしまいますので、不登校期間中にいかに引きこもり状態にならないかということが大切だと私は思っています。
学校に行かない子どもを受け入れられない
質問4:子どもが家で過ごすようになりました。しかし、子どもにずっと日家にいられると、親もイライラしてきます。子どもを受け入れないといけないと分かっていても我慢の限界です。何かアドバイスをください。
回答4:
子どもが家で過ごすようになるのであれば、家で過ごすなりの最低限のルールを親子で共有することをお勧めしています。
家で過ごすとなると、子どもも大人の目を気にしてしまって、心身共に休めないということが起こりやすいです。
ルールを決めて守ることで、子どもも自分の責任を果たしているという思いを持つことができ、よりリラックスできます。
その家庭の状況にあわせて、親としてはこうしてほしいと思っているということを伝え、子どもの意見も聞いて、決めてみてください。
可能であれば、「この家事はあなたに任せる」ということがあっても良いでしょう。
子どもも子どもなりに肩身が狭い思いをしていますので、何かお手伝いでもして「ありがとう」と言われた方が、安心して家にいられるでしょう。
このように最低限のルールや枠組みを設定しておくことが重要だと思います。
不登校支援の目標は、何らかの形で社会とつながり、社会に出て行くことであり、引きこもり状態になることは最も避けたいところです。
子ども本人の心身の状態にもよりますが、完全に自室で一日閉じこもっているというのは望ましくありません。
もちろん、無理やり連れ出せということではなく、食事は家族と食べる機会を設けるか、それが難しいのであれば食卓に自分で取りに来る、買い物も自分が欲しいものは自分で買いに行かせて、自室でネットショッピングで完結するというのは避けるなど、自室で一日の生活のすべてが成り立つということは避けましょう。
また、子どもに配慮しつつも、親は親の生活を継続することはとても大切です。
仕事はもちろんですが、趣味などの活動も可能な限り継続する方が良いと私は思います。
子どもが苦しんでいるのに、親は楽しんでも良いのでしょうかと質問されることも多いのですが、子どもを完全にほったらかしてしまうのは良くありませんが、親は親で楽しむ時間を持つことは、気分転換ということも含めて大切なことです。
また、楽しそうな生活をしている大人、充実している生活をしている大人、を見せることは、子育てにおいて、とても大切なことでもあります。
毎日しんどい顔ばかりしている大人を見て育った子どもは、自分は大人になりたくない、子どものままでいたいと思うからです。
保護者から、「あなたのために仕事をやめた」「趣味もやらない」と言われても、子どもにとっては、うれしさもありつつ、強い罪悪感を抱きます。
親は親、子どもは子ども、ここの境界線は、どんな時でも保っておく必要があります。
不登校や行き渋りの状況に納得できない。やっぱり学校に行かせたい
質問5:子どもが不登校になって、専門家に相談しました。今はしっかりと休む必要があると言われて、保護者としても、休む必要があることは頭では理解しているつもりですが、やはり学校に通って欲しいという思いがあって、なかなか納得できません。そんな自分が情けなく思います。
回答5:
こういう方に対して「もっと子どものことを考えてください」とおっしゃる方もいるとは思いますが、私はそうは思いません。
子どもを大切に思うが故に、多くの保護者は、今の子どもを守ってあげるためには休ませてあげたいけれど、将来の子どものことを思うと学校に行った方が良いとも思う、という葛藤を抱えられると思います。
それは、情けないことではなく、とても立派なことです。
さらに言えば、子どもはそういう保護者の姿をじっと見ています。
自分のことで悩んでくれている保護者に対して、複雑な思いを抱きつつも、将来的には必ず、「あの時一緒に悩んでくれてありがとう」と言ってくれるでしょう。
また、基本的に登校刺激は良くないと思われてはいますが、学校に行って欲しいという思いを伝えることが、完全に悪いわけではありません。
親として、子どもにどう思っているか、どうして欲しいのかという思いを伝えることは、どこかの段階では必ず必要なことです。
ただ、大人としてはこう思っている、子どもとしてはこう思っている、というやりとりが成立するためには、大人の思いに強制力が伴ってしまうとうまくいきません。
大人としては学校に行って欲しいとは思っているが、無理に学校に行かせることはないというところがないと、子どもは大人の話を聞いてくれないでしょう。
私が、不登校支援をしている際に、「大丈夫かな」「心配だな」と思うのは、妙に物分かりの良い人(子どもも大人も)です。
「今は休むことが大切ですもんね。しっかり休ませますね」という感じで、特に悩まずに、物分かりが良いように見える人です。
あっさりと「学校休んでいいよ」と言われた子どもは、嬉しい思いがありつつも、見捨てられたような気持ちにもなります。
やはり、子どもは、保護者に一緒に悩んだり苦しんで欲しいのだと思います。
物分かりが良い保護者のケースの多くは、初めはうまく進展しているように見えます。
しかし、不思議なことに、子どもがなかなか元気にならなかったり、むしろ問題行動が増えたり、身体症状や精神症状が出てきたりすることがあります。
これはあくまでも、私の主観ですが、そうまでしないと保護者は自分の方を見てくれないと、子どもは感じているのではないかなと思います。
質問6:子どもが学校に行きたくないと言っても、無理やり行かせたら行くようになったと聞きました。また、不登校経験者の方から「無理やりにでも学校に行かせて欲しかった」という話を聞いたこともあります。強制的に行かせるという方法もありあえるということでしょうか?
回答6:
これは非常に難しい問題ですね。
「そういう方法もありですね」と簡単に回答してしまって、誤解が広まるのは絶対に避けたいところです。
ここではまず、「無理やり」というところを誤解してはいけないと思います。
子どもとしては行きたくない、保護者としては行かせたい、その二つの思いをぶつけあった中で、子どもが、保護者がそこまで言うなら仕方ないとしぶしぶでも行くというのは、とても良いと思います。
保護者と子どもとで話し合った結果、子どもが保護者の意見を受け入れたと理解できます。
しかし、保護者が子どもの意見を何も聞かずに、一方的に行きなさいと言って、泣いて嫌がる子どもを無理やり連れていくことは、良くないと思います。
それでも学校に行ったから良いではないかと思われるかもしれませんが、私が良くないと思うのは、学校に行くことが子どもにとっての唯一のゴールではないからです。
もし、学校に行くことだけを目標にするのであれば、学校に行きたがらない子どもは一度は無理やりにでも連れていきましょうとお伝えするかもしれません。
しかし、無理やり連れて行かれて、それでも学校に行けないとなると、子どもの傷つきはかなり大きくなってしまいます。
自分が信じていた大人に、あれだけ学校に行くのがしんどいと言っていたのに聞いてもらえなかったとなると、回復の道のりは険しくなってしまいます。
もしかしたら、無理やり連れて行ったことで登校できるようになったケースは、「この子は今は、無理やりにでも連れて行った方が良い」という見通しが保護者や専門家の中であったのかもしれません。
不登校対応は本当にケースバイケースなので、そういう方法が有効的に作用するケースもありますが、それに伴うリスクを考えると安易に飛びつく方法ではないと思います。
不登校や行き渋りを直したいけど、子どもと会話ができない
質問7:相談機関で、もっと子どもと話をするようにと言われました。でも、こちらが話しかけても、「うん」と言うぐらいで、話をしている意味が分かりません。何を話したら良いかも分かりません。本人はそっとしておいて欲しいように見えるのですが。
回答7:
子どもは一人で生きているわけではなく、何らかの形で保護者や大人のケアを受けて生活していますので、不登校に限らず、子どもが何らかの問題等を抱えるとなると、最も身近な大人である保護者に対しての要求が増えていきます。
その中で、「もっと親子で会話を」とか「子どもの話を聞いてあげてください」というようなフレーズは出やすいかなと思います。
そして、この親子での会話ということに対して難しさを感じられる方もたくさんおられます。
これは、多くの場合は、我々専門家の提示の仕方に問題があるように思います。
「もっと親子で会話を」と言われた保護者の方は、何とか話題を見つけて子どもに話しかけようとされますが、なかなかうまくいきません。
友達同士ではなく、親子の会話が長時間にわたって盛り上がるということは、ほとんど無いと思って良いでしょう。
それでも、保護者は必死に話しかける、子どもはますます面倒くさくなって距離を取る、ということが起こってしまいます。
そこで私は、「毎日、短時間で良いので、子どもと同じ空間に居てみてください。大人から話をする必要はないので、黙っていても良いです。子どもから話しかけてきたら、黙って聞き続けてみてください。」と伝えています。
大人から話をする必要はなく、なんとなく一緒に時間を過ごすところから始めます。
そのうち、子どもが話し始めますので、聞いておいてください。
沈黙が続いても気にしなくて大丈夫です。
子どもが何か話したいなとか、困ったことを相談したいなと思った時に、ポッと話せるような場があるということが大切だと思います。
おわりに
子どもが不登校状態になり、再登校するのが難しいことが段々と分かってくると、何を目標にすれば良いのか、一生このままかもしれないと、思い悩んでしまいます。
私たち支援者も、「人生という長いスパンで考えて、お子さんにとって何が最善なのかを考えて行きましょう」というような声をかけ、もちろんそれは心から言っているのですが、一方で、子どもや保護者さんの気持ちを考えると、重苦しい気持ちになるのも事実です。
そういう時には「きっと大丈夫」「自分のこと、自分のお子さんのことを信じていきましょう」と声をかけることがあります。
もちろん「そうですね」と言ってくださる方はごく少数で「何を根拠に?」と不満げな方もいらっしゃいます。
どうしても心のどこかに、不登校=失敗という思いがあり、このままではいけないと自分や家族を否定しがちです。
でも、不登校の経験が失敗だったのか、成功だったのかを決めるのは、過去ではなく、未来です。
そして、未来は変えていけます。
自分や家族を信じて、一歩ずつ進んでいけば、大丈夫です。
その子が生きてきた歩みや、親子(あるいは子どもと保護者)が紡いできた絆、を信じてみましょう。
その道中に、今回の記事の内容を少しでも参考にしてもらえると幸いです。
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