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発達障害でないと安心?「障害かどうか」と「親として心配な子どもの状態」の関係

お子さんの発達面への心配を抱えている親御さんにとって、相談するということはとても勇気のいることですよね。

「うちの子、障害があるのかな」「障害と言われたらどうしよう」といった不安を抱えているが故に、相談することで相手からの反応・返答への恐怖すら感じていることもあるかもしれません。

「障害ではない」と言ってもらいたいと切に願っている方もいるでしょう。特にお子さんが小さい頃は、そのような周りの人からの反応・返答に一喜一憂しがちです。

親御さんの気持ちとして「障害ではない」と言われることの安心感も理解できます。ただ、それを言われたからと言って、親御さんが心配に感じているお子さんの状態が変わるわけではありません。

親として子どもの状態をどう捉えていくか、これからどのように考えて行動していけるとよいのか。そのヒントとなるような考え方・捉え方を伝えます。

揺らぎの状態にいる親御さんへ、親御さんの考え方や捉え方の幅を広げる一助になればと思います。

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この記事を書いた専門家

日塔 千裕


公認心理師、臨床心理士

発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、1,460組を超える親子をサポート。電話相談でも、学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、10,000件を超える相談に応じる。

子どもの発達が心配…。相談するのも怖い…?

「うちの子、なんか違う?」

「周りの子と同じように出来てないかも…」

「発達が心配…」

「もしかして発達障害?」

実際に誰かに相談するまでには、そのように感じて悩まれている期間があるでしょう。

夫婦でその感覚や心配、不安などを共有できていればまだよいですが、それができずに一人で抱えている親御さんもいることと思います。

誰かに話すことで現実のものになる。「障害がある」と言われてしまうことへの恐怖を感じている方もいるかもしれませんね。

お子さんのことを見てくれている先生や相談機関などへの相談は、初めて相談するというタイミングではとても勇気のいることです。

相談の一歩を進められるかどうかは、お子さんのことに関わらず、日頃から人に頼ることができるか、些細なことでも相談することができているかといった親御さんの性格も影響しています。

日頃からちょっとしたことでも周りの人に意見を聞くようなタイプの親御さんであれば、「うちの子、こんなところがあるんだけど、先生から見てどうですか?」などちょっと気になったことを気軽に聞いているでしょう。

それを繰り返しながら、徐々に聞く内容が発達障害かどうかといったより深い内容に変化して、お子さんの状態の理解を深めようとしている傾向があります。

一方で、周りに相談したり自分の気持ちを伝えたりすることが苦手なタイプの親御さんは、お子さんのことに関しても、一人で悩んでいることが多いです。

ほかの人から見たお子さんの様子を聞くのではなく、親御さん自身が気になったポイントについて、ネットや書籍などから情報を収集していることでしょう。

ネットの場合は特に親御さん自身のアンテナに引っ掛かった情報ばかりが表示されるため、情報に偏りが生じてしまうこともあります。

さらに、人はどうしても悪い所に目が行きがちなので、悪い方向ばかりに考えてしまうこともあるでしょう。

誰にでも相談してみればいいということではないですが、きちんと話を聞いてくれる、きちんと知識を持っている人を見つけて相談するに越したことはありません。

このようなモヤモヤとした期間を過ごし、いざ「相談」に至るときには、どのような返答を期待しているでしょうか。

発達障害ではないと言われたい親御さんもいれば、発達障害だと言ってほしいという親御さんもいるでしょう。

あるいは、発達障害かどうかよりも、お子さんの状態の正確な理解と関わり方を教えてほしいという親御さんもいます。

私は臨床心理士としての立場で関わっているので、発達障害かどうかの診断をできる立場ではありません。

発達障害かどうかを知りたいという親御さんには、児童精神科や発達外来などへ受診して医師の診察を受けるように伝えています。

発達障害かどうかの診断は医師しかできないのです。

ただ、その前後で相談を受ける立場にあり、さまざまな親御さんの心の声を聴かせていただきました。

その中には発達障害ではないと言われてホッとした親御さん、発達障害ではないと言われたけど余計にモヤモヤしている親御さん、発達障害だと言われてスッキリしたという親御さん…。本当にさまざまな反応があります。

発達障害ではないと言われたけど余計モヤモヤするというタイプや発達障害と言われてスッキリしたというタイプは、その後も療育や相談に来ていただくことが多いので、その後も引き続き、サポートさせていただいています。

ただ、発達障害ではないとなると、支援者によっては「大丈夫ですよ」などと相談を終了にすることもあります。親御さんの心配には応えられてないんですけどね…。

その地域での相談機関は限られていますし、相談することもエネルギーのいることなので、いろんな支援者に相談してみて、親御さんが納得できる対応をしてくれる支援者を探すというのも難しく、もどかしいところです。

一方で、発達障害ではないと言われてホッとしたというタイプの親御さんは、その後、相談を続けることはほとんどないので、私の立場としてはあまり接する機会がないのが実際です。

このようなタイプの親御さんを否定するわけでは決してありません。

ほとんどの人は障害がある子を育てるという前提を考えていないため、戸惑いが大きく、障害ではないと言われてホッとしたというのは自然な反応だと思います。ただ、安心して、それで終わりなのでしょうか。

その相談に至るまでのモヤモヤは、完全に拭えましたか。これまで毎日、親御さんが見てきて心配、不安、気になると感じてきたことは事実です。

親御さんがお子さんを見てきた時間の何百分の一というわずかな時間しか見ていない人から言われた一言で、これまでの悩みはすべて消えるのでしょうか。安心した。ホッとした。それはそれでOKです。

ただ、目の前のお子さんの状態が変わるわけではありません。

親御さんが心配、不安に感じていることと目の前のお子さんの状態に焦点を当てて、お子さんが将来的に少しでも困らずに生活できるように、自立した生活を送れるように成長を促す関わりを考えていくことが大切です。

ここで、発達障害かどうかをはっきりさせる、発達障害との診断を受けることの意味を考えてみましょう。先述の通り、発達障害と言われてスッキリしたという親御さんもいらっしゃいます。

これは、発達障害の特徴と言われているものにお子さんが該当しているということで、より正確なお子さんの状態理解に繋がり、親御さんの中で色々考えていたモヤモヤが晴れた状態でしょう。

このようにお子さんの状態理解、そしてそこから関わり方のヒントも見つけやすくなるということに繋がるという点で、発達障害の診断を受けたことが良い方向に作用しています。

ただ、発達障害ではないと言われても、親御さんが心配・不安に感じているお子さんの状態はあり、お子さん自身も困っているかもしれない状態にあるという親子もたくさんいらっしゃいます。

それはいわゆるグレーゾーンに位置するタイプのお子さんたちです。

発達障害かどうかを明確にしたところで、目の前のお子さんの状態は何も変わらず、目の前の困り感も解決には繋がっていない状況です。

発達障害かどうかということにこだわらず、目の前のお子さんが生活しやすくなるためにはどうしたらよいか、将来的に自立して生活できるようになるためには何を伸ばしてあげられるとよいかなどの視点が重要なのです。

今は情報があふれているので、ネットを検索すればいろいろと情報を得ることはできるでしょう。

ただ、目の前のお子さんに対して今、何ができるのかといった優先順位や、お子さんの状態と親御さんの性格とそれらを含めた環境の相互作用の中にどう取り入れるとよいのかといったことを親御さんだけで考えるのは、なかなか難しいところです。

なので、そのような視点でじっくりと相談をできる支援者を見つけていくことができるとよいでしょう。

発達障害かどうかにこだわる必要はないということをお伝えしましたが、発達障害の診断を受けることによるメリットがないわけではありません。

お子さんは、平日であれば親御さんと過ごす時間よりも、園や学校で過ごす時間の方が長い場合が多いでしょう。園や学校の先生ともお子さんの状態を共有しながら、成長を促していくことが大切となります。

先生たちもお子さんを見てくださっていますが、親御さんと共通理解をしていく際の説明の導入には、診断結果が活用できます。あくまで話すきっかけの導入ではあります。

同じ診断名でもお子さんの示す状態はさまざまなので、その後、状態や必要な関わり方などの説明は必要となります。

そのような説明が必要な場面では診断名を活用できるとよいでしょう。

そのようなとき以外は、しつこいようですが、発達障害かどうかにこだわらず、お子さんの状態に焦点を当てて、お子さんの成長を促すアプローチ方法を考えていけるとよいですね。

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