お子さんの発達が気になっていたり発達障害の心配をされていたりする親御さんであれば、さまざまな情報を調べる中で「グレーゾーン」という言葉を何度も目にしたり聞いたりしたことがあるでしょう。
グレーゾーンという言葉は発達障害に関連する分野でいわゆる業界用語のようによく使われていますが、決して診断名ではありません。グレーゾーンという障害があるわけではないのです。
白か黒か決められない、いわゆるグレーの状態であるというところから「グレーゾーン」と言われるようになっています。
知的障害においてもグレーゾーンという言葉が用いられることもあります。
正確に説明されればよいものの、曖昧な状態で説明されていることも多く、どちらの意図で使用されているか文脈からの判断を求められることが多いのも実状です。
本記事では、グレーゾーンの2つのパターンについて解説していきます。
こちら。
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日塔 千裕
公認心理師、臨床心理士
発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。
「グレーゾーン」とは
グレーゾーンとは、障害となる状態と全く障害とならない状態の間で、障害とは言い切れないけど、ちょこちょこと困りごとは色々あるよねという状態が存在するということです。
健康診断の結果を思い浮かべてみてください。
たとえば血液検査の数値など、正常値と要観察、再検査と大きく分けると三段階の評価が返ってくるかと思います。正常値はいたって健康上の問題はありませんということですよね。
一方で、再検査はすぐにより精密な検査を行った方がよいですということですね。
さらに、正常値と再検査の間に位置するのが、要観察という段階です。食生活や運動などの生活習慣の見直しをすることで、改善の余地があるというような状態です。この「要観察」の段階が発達面でいう「グレーゾーン」となります。
もちろん意味や解釈の仕方は違いますが、ほとんどの方が経験しているであろう健康診断の中でも、用語が違うだけでグレーゾーンの段階が存在しているのでイメージしやすいように例として挙げてみました。
健康診断の結果は数値化されているものが多いので、この数値以上、あるいは以下としてどの段階に位置しているのが明瞭かと思います。
身体的な面であれば数値化に限らず、何らかの検査の画像で異常なものが写っているなど見て判断できるものが多いでしょう。
一方で、発達面では心理検査で数値化されるものも一部ありますが、それはあくまで一要素であり、数値や画像で一目瞭然の基準を作ることができません。
それがグレーゾーンの状態への分かりにくさにも繋がっているのかもしれません。
グレーゾーンを意味する2つのパターン
知的能力におけるグレーゾーン
近年は発達障害のグレーゾーンと言われることが多いように思いますが、発達面においてグレーゾーンと表現されることは実はもう一つあります。
それは、知的能力におけるグレーゾーンです。
知的能力とは、知的障害かどうかと言った方が分かりやすいかもしれませんね。
知的障害は、知的能力の低さと日常生活での生活能力の獲得の遅れで日常生活に支障が生じている状態です。
近年は、生活能力によって知的障害かどうか、知的障害の程度の判断をする方向になっています。
ただ、長年、心理検査の一種である知能検査を受け、知能検査の結果のIQの数値によって判断されてきた経緯があり、まだ現状としてはIQを指標に用いています。
しかし、これまでもIQのみで判断されていたわけではなく、日常生活の様子の聞き取りも行い、IQと生活能力を総合的に判断されています。
日本で、生活能力重視で、IQを取り除いて知的障害かどうかを判断することができるようになるのは当分先なような気がするのと、生活能力だけで説明されてもイメージしにくいと思うので、ここではIQの数値を目安として説明させていただきます。
知的障害と言われているIQは概ね70以下です。
言葉の獲得数の少なさや言葉の理解の難しさ、説明力の乏しさなどの言語発達の遅れや身体発達面の遅れなど、さまざまな面で年齢に比べて成長がゆっくりだと感じられることがあるでしょう。
小学校入学後に、文字の読み書きや算数の理解などの学習面のつまずきで気付かれることもあります。
では、IQ70とIQ71では何が違うのでしょうか。
そこに明確な違いはありません。
同じIQ70の子どもであったとしても、知的な面以外の、子どもの性格や特性、どのような経験ができているかなどさまざまな要因によって、子どもが示す日常の行動は変わってきます。
そのため、生活能力が重視されてきているのです。
IQ概ね70~80の子どもたちは、知的障害ではない状態であったとしても、同じ年齢集団の中でスムーズに周りの指示を理解したり説明したり、日常生活習慣の行動を獲得したりできているかというとそういうわけではありません。
できないわけではないけど、もう一声の声掛けが必要、ワンテンポ遅れるなどの状態がさまざまな場面で生じているでしょう。
このような状態が知的能力のグレーゾーンと言われる状態です。
「境界知能」や「ボーダーライン」と言われたりすることもあります。
心理検査は、「大人の指示に応じることができる」ことを前提とされています。
指示に応じる力やこだわり、集中力等のその他のお子さんの特性により、心理検査だけではお子さんの持つ力を的確に測定できないこともあります。
そのため、あくまで1つの指標であり、IQがすべてではありません。
このようなタイプのお子さんに関しては、ここでお伝えしているグレーゾーンとしての捉え方とは別視点で考えていくことが必要となります。
発達障害のグレーゾーン
主に自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(AD/HD)において、それに近い状態は示しているけれども、診断されるほどの状態ではないというのが発達障害のグレーゾーンと言われています。
ASDやAD/HDも検査はありますが、健康診断や医学的な検査と異なり、その子を見ている親御さんや、園や学校の先生が回答するアンケートみたいなものや行動観察に近いものとなります。
人間の心身の発達状態の測定なので、どうしても血液を抜いて検査して、というような確認の仕方は不可能で、それは仕方のないことです。
以前、「答える人によって結果が変わりますよね」とある親御さんから指摘されたこともありますが、それはその通りだと思います。
というのも、お母さんが見ている・感じているお子さんの姿と、お父さんが見ている・感じているお子さんの姿でも、全く同じ評価にはならないはずです。
なので、お母さんとお父さんが別々で回答すると、結果が変わることは十分にあり得ます。
また、最近はASDも診断名が変わり、自閉スペクトラム症と包括されたので、あまり聞かなくはなりましたが、以前はもう少し細かく分割された診断名でした。
よって、「医者によって診断名が変わった」ということを言われたこともあります。それくらい心身の状態を判断することは難しいことであり、曖昧なものでもあります。
下の図のように、そのお子さんの状態によってグラデーションがあります。
・日常生活で明らかな困難さを示す状態がブラックの部分でASDやAD/HDと診断される状態。
・真っ白の部分が年齢相応の発達(定型発達)をしており、発達面の心配がない状態。
・そして、ブラックと真っ白の間には広範囲なグレーな部分があります。これがグレーゾーンと呼ばれる状態です。
日常生活での困難さもさまざまで程度も異なり、広範囲の子どもたちがグレーゾーンに位置していると言えます。
下の図で、ブラックな部分とグレーの部分を直線にせず曲線で境界を示したのは、直線的に人の心身の状態を分断することはできないからです。
グレーゾーンとなるか、発達障害と診断されるか、グレーゾーンのどのような場所に位置するかは、お子さんの身近にいる周りの大人が何をどこまでお子さんに求めるかによって多少変わるとも言えると思います。
幼児期~小学生低学年頃までのお子さんは、もちろんお子さん自身が「しんどい」「辛い」「これが嫌だ」などと言える場合もありますが、幼少期は特に親御さんや園・学校の先生が「周りの子と違う」ということがスタートになっていることが多いです。
つまり、お子さん自身が困っているよりも、周りの大人が周りに合わせようとさせて、お子さんが出来ていないから大人が「困っている」という状態です。
昔も「ちょっと変わった子」として、発達障害やグレーゾーンに位置するような子はたくさんいました。
その時代によって、それぞれに大変なこともあったと思いますが、「ちょっと変わった子」として受け入れられていたことも多かったように思います。
ただ、近年は発達障害の認知度の高まりや、核家族化・共働き・シングル家庭など子育てにおけるマンパワー不足・時間的余裕のなさなどにより、周りの大人たちの心の余裕がなくなっている現状があります。
それが「周りと同じ」と求める傾向を強め、周りと同じことができない子どもたちへの「大人の困り感」が強くなり、結果としてお子さんをラベリングしようとする風潮があるように感じます。
多様性が言われるようにはなっていますが、まだまだ同調圧力が強く、本当の意味で多様性を尊重できている環境はごく一部と言えるでしょう。
日本だけではありませんが、特に日本では同調圧力の風潮が強く、中でも教育現場ではよりその傾向が顕著なように感じます。
社会に出た方が、多様性を尊重している社会(会社)が増えてきています。
まとめ
お子さんの状態判断に際して、周りにいる大人たちを少し悪者にするような書き方をあえてしましたが、親御さんの「気になる」感覚を否定しているわけではありません。
その「気になる」という感覚は、お子さんが将来、困らないようにするための成長へのアプローチを考えるうえで大切な指標になります。
診断名や「グレーゾーンと言われた」ことにこだわらず、お子さんの状態に焦点を当てていきましょう。
将来、自立した大人になるために、お子さんがどのようなスキルを身につけられるとよいか、どういう経験を積ませてあげられるとよいかという視点で、お子さんの中に知識や経験のストックを増やしてあげられるための関わり方を考えてあげられるとよいでしょう。
こちら。
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