人は誰でもバイアス(先入観、思い込み)の影響を受けていますが、それに気付くことは難しいものです。
バイアスが思考の役に立つ場合ももちろんありますが、それによって考えが偏ったり悪影響を受けてしまうことも時にはあります。
今回は「確証バイアス」というバイアスについて、子育て場面に着目しながら解説します。
これを知ることで、子どもたちのより大きな可能性や強みに気づくことができるかもしれません。
この記事を書いた専門家

山崎 日菜乃
公認心理師、臨床心理士
心理士としてメールカウンセリングに3年半従事し、家族関係の悩み、心身の不調、仕事の悩みなど、様々な困り事へのサポートを行う。アメリカ合衆国在住。
子育ての思い込み”確証バイアス”とは
「確証バイアス」とは認知バイアス(物事の判断が、直感やこれまでの経験にもとづく先入観によって非合理的になる心理現象)の一種で、自分の考え(信念)を肯定してくれる情報ばかりを無意識に集めようとする心理傾向のことです。
人には、自分に都合のよい情報ばかりを集めて、それ以外の情報を無視や軽視してしまう傾向があるのです。
例えば、ある政党を支持している人はその政党のいい情報ばかりに着目し、無意識のうちに悪い情報や反対意見を無視したり軽く考えてしまう、などです。
こうした傾向は誰でも持っているもので、それ自体が悪ではありません。
確証バイアスをはじめとする認知バイアスは、日々の生活の中で情報を効率的に処理することに役立っています。
しかし、それが行きすぎると考えが凝り固まりすぎたり、偏見や差別を生んでしまうこともあるため、確証バイアスについて理解しておくことが大切です。
確証バイアスの発見
確証バイアスという言葉は、イギリスの心理学者Peter Cathcart Wason(以下、ウェイソン)によって作られました。
ここで「2-4-6 課題(ルール発見課題)」という、1960年にウェイソンが行った実験を紹介します。
ウェイソンは、29名の大学生に対して3つの数字の組み合わせを提示し、それらの数字の並び方にはどんな法則があるかを予測してもらいました。
(例えば「2、4、6」という3つの数字の並び方にはどんな法則がありそうでしょうか?よかったら一緒に考えてみてくださいね。)
学生たちはヒントを得るために、自由に3つの数字を言い、その3つの数字が正解の法則に合っているかどうかを知ることができます。
例えば、学生が「8、10、12」と言えばウェイソンは「○」と伝え、「10、9、8」と言えば「✕」と伝えました。
このようにヒントを使いながら正解の法則を見つけるという簡単な課題です。正解の法則を当てるか、制限時間の45分を越えるか、ギブアップすると終了となりました。
ウェイソンが実際に設定した法則は、「だんだん数字が大きくなる」でした。
この実験で分かったのは、なかなか正解にたどり着けなかった学生は、ヒントをもらう時に自分が予想した法則を確認するような数字ばかりを言っていたのに対して、早く正解した学生は自分の予想に反する数字も含めて色々な組み合わせを言ってヒントを得ていたということです。
例えば、「2、4、6」という組み合わせから「2ずつ増える」という法則を予想した場合、
なかなか正解にたどり着けなかった学生は「8、10、12」や「22、24、26」など自分の予想した法則に従う数字ばかりを回答した一方で、早く正解した学生は、「3、6、9」(3ずつ増える)や、「10、9、8」(数字が減っていく)など、様々なパターンを回答することでヒントを得て、正解の法則を見つけたのです。
この実験によりウェイソンは、人の認知は、「自分の仮説を確認しようとする方向に偏っている」ということを明らかにしたのです。
この研究をきっかけに確証バイアスについてたくさんの研究が行われるようになりました。
SNSと確証バイアス
SNSではフォローする人や興味のあるトピックを自分で選択できたり、自分の好みや興味に合う情報が表示される仕組みのため、同じような情報や見たい情報ばかりを目にすることになりやすい環境といえます。
また、特定のキーワードやユーザーをブロックすることもできるため、自分の思考にそった情報しか流れてこない環境を作ることができますよね。
そうした機能が心を守ることに繋がったり、SNSの場が心の支えとなることもある一方で、自分の考えを支持する情報しか受け入れられなくなり自分の考えが凝り固まってしまうリスクもあるといえるでしょう。
子育ての思い込み”確証バイアス”の具体例
ここで子育て場面に注目し、確証バイアスがマイナスに働いてしまうパターンをいくつかご紹介します。
A. 「この子はこういうタイプだ」と思うとそれ以外の情報や見方、可能性に気付けなくなってしまう
例)
- 「この子は算数が苦手だ」と思っていると、子供が算数の問題に苦労している姿や点数の悪かったテストにばかり注目したり印象に残り、算数の問題をすらすら解いている姿や点数の良かったテストもあることには気付かなかったりよく覚えていない、もしくは、今回はたまたま上手くいっただけだなどと軽く捉えてしまう。
- 「運動音痴な私たちの子だからこの子も運動は苦手に違いない」と思っていると、子供が小さい頃によく転んだことや今泳ぐのが苦手なことなどにばかり意識が向き、最近はめったに転ばないことや体操が得意であることには気付かなかったり、このくらいは普通じゃないかと軽視してしまう。
B. Aの考えに沿った声かけばかりすることで、子供自身もできないことや苦手なことばかり意識するようになり、できることや得意なことに気付けなくなってしまう
例)
- 「算数が苦手だよね」という声かけを繰り返すと、子供自身も算数の問題を解けなかったことばかりに注目するようになり、解ける問題もあることや好きな単元もあることに気付けなくなる。
- 「私たちが運動音痴だからあなたもきっと運動音痴よ」という声かけを繰り返すと、子供自身も上手く体を動かせなかったことばかりに注目するようになり、得意な運動や好きなスポーツもあることに気付けなくなる。
C. 子供の言動の理由やその背景にある気持ちを読み違えてしまう
例)
- 「この子は宿題をしたくないはずだ」と思っていると、子供が宿題をせずごろごろしている時に「したくない宿題から逃げている」と捉えてしまい、他の可能性(例えば、子供に悩みがあって宿題に手がつかないこと)に気付けない。
- 「この子は反抗的だ」と思っていると、子供がすぐに返事をしなかった時に「無視している、やっぱり反抗的だ」と捉えてしまい、他の可能性(例えば、子供が返事をする前によく考えようとしていたこと)に気付けない。
D. 子供の才能や性格への期待があると、その背景にある努力や辛さに気付けない
例)
- 「この子は生まれつき賢い子だ」と思っていると、いい点数をとるのも生まれつきの才能のお陰だと捉えてしまい、子供の日々の努力や感じているプレッシャーなどに気付けなかったり軽視してしまう。
- 「この子は面倒見のいい性格だ」と思っていると、妹や弟にいつも譲ってあげるのは性格からくる行動だと捉えてしまい、子供の頑張りや我慢などに気付けなかったり軽視してしまう。
子育ての思い込み”確証バイアス”の悪影響を防ぐアイデア
確証バイアスについて知っておく
確証バイアスの存在を知り、そういう心理傾向があるのだということを理解しておくだけで、自分の考えを省みやすくなったり自分とは異なる意見に意識を向けやすくなるかもしれません。
この記事を通して初めて確証バイアスについて知ってくださった方もいらっしゃるかもしれませんし、そのことが悪影響を防ぐきっかけとなるといいなと思います。
自分と異なる意見、別の角度からの情報に意識的に目を向ける
自分の意見を支持する情報ばかりに意識が向いてしまう傾向があるからこそ、意識的に自分と異なる意見やそもそも別の角度から物事を捉えている情報などに目を向けることで、考え方のバランスをとることができます。
人の意見、お子さまの話を否定せずに聞く
確証バイアスによって自分の意見を支持する形で相手の意見を捉えてしまう傾向があるため、人の意見やお子さまの話を否定せずにしっかり聞くことがとても大切です。
その時、自分が想定しているストーリーラインに沿わせるように話を聞くのではなく、相手の気持ちや考えを知ろうとする姿勢で聞くことがポイントです。
正確で信頼できるデータを集める
人の意見を聞くことに加えて、正確で信頼できるデータを集め、自分が信じていることに根拠はあるのか、それに反するデータはないかなどを調べることも考え方のバランスをとるのに役立ちます。
世の中には信頼できるデータもそうでないデータも溢れているため、誰がいつどこからどのようにして集めたデータなのかを確認することも大切ですよね。
おわりに
今回は子育て場面での確証バイアスに着目しましたが、お仕事や友人関係など、色々な場面で私たちは確証バイアスによる影響を受けています。
それが思考の役に立つ時ももちろんあるのですが、そうでない場合には対策をして悪影響を防げるといいですね。
参考文献
P. C. Wason (1960) On the failure to eliminate hypotheses in a conceptual task, Quarterly Journal of Experimental Psychology, 12:3, 129-140
Confirmation Bias and the Wason Rule Discovery Test Explorable.com
The Influence of Confirmation Bias in Parenting Psychology Today
Peter Cathcart Wason Wikipedia
Confirmation bias | Definition, Examples, Psychology, & Facts Britannica