これからの社会は、正解が一つではなく、変化も速い時代だと言われています。
そんな時代をしなやかに生きていくために重要だとされているのが、「変革をもたらすコンピテンシー」です。
前回の記事では、その全体像についてご紹介しました。
今回は、より具体的にイメージできるように、そしてお子さまの日頃の学びとどのように結びついているのかが見えてくるように、もう一歩踏み込んで解説していきます。
取り上げるのは、【新たな価値の創造】、【緊張関係やジレンマの調整】、【責任感をもつ】の3つの力です。
それぞれの力がどのような要素から成り立っているのか、そして日本の学習指導要領とどのように関係しているのかを、具体的に解説します。
この記事を書いた専門家

山崎 日菜乃 やまざき ひなの
公認心理師・臨床心理士
心理士としてメールカウンセリングに3年半従事し、家族関係の悩み、心身の不調、仕事の悩みなど、様々な困り事へのサポートを行う。アメリカ合衆国在住。
1.「新たな価値の創造」の主要な構成要素
「新たな価値の創造」とは、既成概念にとらわれることなく、自ら課題を見つけて行動を起こし、主体的に新しいアイデアや解決策、価値を生み出そうとする姿勢のことです。
そのためには、単なるひらめきだけでなく、内面の姿勢や思考の質、他者との関わり方まで含めた、いくつもの要素が関わっています。ここでは、「新たな価値の創造」を支える主要な構成要素について、順に見ていきます。
目的意識・好奇心・柔軟な姿勢
新たな価値を生み出すためには、新しいアイデアや視点、経験に対する目的意識や好奇心、そして先入観にとらわれない柔軟な姿勢を持つことが必要です。
批判的思考・創造性・協働
問題解決に向けて様々なアプローチを見つけるための批判的思考力と創造性が求められます。また、複雑な問題の解決策を見つけるために他者と協働する力も必要です。
柔軟さや機敏さ・リスク管理力
自分達が考えた解決策が有効かどうかを確かめる過程では、新しいアイデアを試してみる柔軟さや素早く判断したり方向転換する力、また、その試みに伴うリスクを適切に評価し管理する能力も必要になるでしょう。
適応力
新たな知見や発見を踏まえて、必要に応じてアプローチを変更していく適応力も求められます。
「新たな価値の創造」と日本の学習指導要領との関連
現在の学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」が重視されており、アクティブラーニングの視点から授業をよりよくしていくことが目指されています。
アクティブラーニングでは、生徒たちが、学んだことを生活に生かしたり、新しい発見や豊かな発想をしたり、一つ一つの知識を繋げて理解し自分なりの考えを形成したりする経験をすることができます。
こうした学びは、新たな価値を創造する力を育むことにも繋がると考えられます。
また、次期の学習指導要領策定に向けて、「正解主義」や「同調圧力」への偏りから脱却する必要性も指摘されており、主体的・対話的で深い学びをより一層具現化、深化していくことを目指す方向性が検討されています。
特に、これまであまり重視されてこなかった、まず考えてみること・行動してみることの重要性が注目されており、学びに向かう力・人間性等の要素の一つとして「初発の思考や行動を起こす力・好奇心」を付け加えることが検討されています。
これまで重要視されてきた粘り強さや自己調整といった力だけでなく、この「新たな価値の創造」に通じるような、既成概念にとらわれない思考や柔軟さ、行動力といった力の重要性が日本の教育においても意識され始めていると言えるでしょう。
2.「緊張関係やジレンマの調整」の主要な構成要素
「緊張関係やジレンマの調整」とは、対立を単純に解消することではありません。立場や価値観がぶつかり合う状況の中で、どちらか一方を切り捨てるのではなく、バランスを探りながらよりよい道筋を見いだしていく力のことです。
現実の社会では、正解が一つに定まらない課題や、どちらを選んでも一長一短がある状況に向き合う場面が少なくありません。
そうした複雑さに耐えながら対話を重ね、折り合いをつけていくためには、思考面・感情面・行動面のさまざまな力が関わっています。ここでは、その主要な構成要素を整理していきます。
認知の柔軟性・視点の転換能力
緊張関係やジレンマを調整するには、問題を異なる視点からとらえたり、それらの異なる視点がどのように対立やジレンマに繋がっているのかを理解する必要があります。
そのためには、まず生徒自身が
- 認知の柔軟性ー物事を多様な視点から捉えたり、既成概念にとらわれず、必要に応じて自分の過ちを認め考え方や行動を調整する力
- 視点の転換能力ー相手の立場に立って考えたり、自分の視点と他者の視点の関係性を捉えたり結びつけたりする力
を身に付ける必要があります。
共感・敬意
自分とは異なる意見をもつ他者に対して、共感と敬意を示すことが求められます。
創造性・問題解決能力・対立を解決するスキル
一見解決不可能に見える問題に対して、斬新で多様な解決策を考案するために、創造力や問題解決能力、対立を解決するスキルが必要になる場合もあるでしょう。
レジリエンス・複雑さや曖昧さへの耐性・責任感
緊張関係やジレンマを調整するためには、複雑で時には難しい決断を下す必要もあります。
そのため、レジリエンスや、複雑さや曖昧さを受け入れ対処できる力、そして他者への責任感を育むことも大切です。
「緊張関係やジレンマの調整」と日本の学習指導要領との関連
現在の学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」において、他者と目標を共有し力を合わせたり、共に考えていくという取り組みがされています。
また、多角的な視点で考える力、他者との協働や情報の多面的理解についても大切な力であるとされており、「緊張関係やジレンマの調整」における、異なる立場を理解したり、折り合いをつけながら考える力に通じる部分があると考えられます。
次期の学習指導要領に向けた検討では、「多様性の包摂(Equity)」が一つの柱とされていることに加え、変化が激しい時代において思考や行動の終点が一つに定まっていない課題を解決していける力の重要性が示されています。
そのための要素の一つとして、「多様な他者との協働・共感や対立の乗り越え等を通じて学びを支える態度」が挙げられています。
他者との関わりを通して、理解を深めたり、自分の思考や行動を調整したりしながら力を合わせて、正解が一つではない課題の解決に向かっていく力が日本でも注目されていると言えるでしょう。
3.「責任感をもつ」の主要な構成要素
「責任感をもつ」とは、自分の選択や行動が、周囲や社会にどのような影響を与えるのかを意識し、その結果を引き受けようとする姿勢のことです。
そこには、道徳的な判断力だけでなく、自分をどう捉えているか、他者をどう尊重しているか、そして関係の中でどのように信頼を築いているかといった、多面的な要素が関わっています。
責任感は一つの性格特性ではなく、内面の理解と対人関係の質の両方に支えられて育まれていく力なのです。
統制の所在・誠実さ
責任感をもつには、確かな道徳観、統制の所在(物事の結果をどのくらい自分の力でコントロールできると考えるか)、そして誠実さが必要です。
そうした感覚があってこそ、自分だけの利益でなく、他者や社会への利益がより大きくなるような行動をするための意志決定ができるようになります。
思いやり・敬意
他者への思いやりや敬意を持つことも、責任感を発揮するためには重要です。
批判的思考
自分や他者の行動を振り返る際には批判的思考が役立ちます。
自己理解・自己統制力・内省的な思考
自分の感情、好きなこと、強みや限界などを認識することで自分を理解したり、感情や注意、行動を調整したり、物事をあらゆる角度から批判的かつ注意深く検討することは、責任感をもつ上で特に重要です。
信頼
責任感を育む前に生徒との信頼関係を築くことも大切です。友達や先生、保護者から信頼されていると感じられると、生徒は自分の行動に責任感をもちやすくなります。
「責任感をもつ」と日本の学習指導要領との関連
現在の学習指導要領の前文では、「自分のよさや可能性を認識する」「あらゆる他者を価値の
ある存在として尊重」することの大切さが示されています。
また、様々な課題に対して「自分ならどうするか」と向き合い、自分とは異なる意見をもつ他者と議論することも重視されています。
特に道徳科の学習内容には「正直・誠実」「親切・思いやり」「自律」「友情・信頼」「相互理解・寛容」などが含まれ、「責任感をもつ」の構成要素との共通点が見られます。
また、次期の学習指導要領策定に向けて「自らの人生を舵取りする力と民主的で持続可能な社会の創り手」を育むことが大きなテーマの一つとして議論されており、学びや自己理解を深めつつ、当事者意識をもって自分の意見を形成し他者と協働できる力を育成していくことが目指される見通しです。
また、多様な個性や特性、背景をもつ子どもたちが多くなっていることも注目されており、そのような多様性を可能性や個性として伸ばしていくことで個人および社会の力に変えていけるような教育のあり方が模索されています。
ラーニングコンパスのまとめ
これまで、Education2030/2040プロジェクトの主要な成果物であるラーニングコンパスについて、各要素を取り上げながら解説してきました。ここで全体を簡単にまとめてみます。
学びのコンセプトマップ:ラーニングコンパス
学びの価値や方向性を確認するためのツールです。子どもたちのもつ力がコンパスに例えられ、それを活用しながらウェルビーイング向かって進んでいくイメージが示されています。
最終目標:個人と社会のウェルビーイング
Education2030/2040プロジェクトにおける教育の最終目標であり、個人も社会もより良い状態(幸せで豊か)であることを意味します。
必要な力:エージェンシーとコンピテンシー
ウェルビーイングを達成するために必要な力です。
エージェンシーは、単なる主体性ではなく、社会との繋がりを意識して、責任をもって行動を起こす力です。
コンピテンシーは、学んだことや様々な力を生かしてよりよい方向に問題を解決していく総合的な力です。
この両方を合わせて発揮することでウェルビーイングに向かって進んでいくことができます。
これからの時代の鍵となる力:変革をもたらすコンピテンシー
変化が激しく正解のない問いが溢れるこれからの時代に欠かせない力です。
自ら課題を見つけ、常識にとらわれず創造的にアイデアを生み出し、異なる立場とのバランスをとりながら、自分の行動や選択に責任を持つ。
こうした力は人工知能には成し得ない人間に特有の力であり、これからの社会においてウェルビーイングを達成していくための鍵となると考えられています。
このコンピテンシーも単独で機能するものではなく、エージェンシーや基本的なコンピテンシーとかかわり合いながら発揮される力です。
おわりに
変革をもたらすコンピテンシーに目を向けてみると、これからの時代がどのような時代なのか、また、その時代を生き抜ける力を育むためにはどのような教育が必要か、という繋がりがよりはっきりと見えてきます。
また、学習指導要領を見てみると、日本でも、変革をもたらすコンピテンシーに通じる力が重視される傾向にあることが伺えます。
その一方で、こうした力を日々の授業でどう育んでいくか、一人一人の多様性をどう伸ばしていくかなどについては議論が続いているのも現状です。
ご家庭や地域社会でも、こうした概念について知ったり意識したりすることで、より子どもたちの学びが豊かになるきっかけとなれば幸いです。
参考



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