心理士が解説!発達障害と中学受験

「小学校低学年から塾に通わせています」ということを最近よく耳にします。

中学受験のための準備は、早い家庭だと幼稚園や小学校低学年からスタートしているそうです。

しかし、「小学校の授業に子どもが追いつけなくなった」、「授業に集中できなくなった」などを理由に、知能検査を受けさせた結果【発達障害】とわかったら…。

「中学受験はあきらめた方がいいの?」

「進路はどうしていったらいいんだろう」

このような不安な気持ちでいっぱいになる親御さんは多いと思います。

もちろん、お子さんが嫌がってさえいなければ、発達障害を理由に中学受験をあきらめる必要はありません。

今回は、中学受験の準備をすでにしていた子どもが発達障害と分かった場合の進路について解説したいと思います。

この記事を書いた専門家

いけや さき


公認心理師、臨床心理士

精神科病院、療育施設、心療内科・児童精神科クリニックなど主に医療と福祉領域にて心理士として従事。発達障害の子どもたちや保護者、女性のメンタルヘルス等のサポートを行いながら、webライターとしても活動中。

発達障害の子ども本人が望んでいれば、中学受験を選択するのはありです。

ただし、子どもが受験を拒否している場合や勉強に対するモチベーションが少ない場合は、話し合ったうえで進路について改めて考え直す必要があるでしょう。

先月の記事で紹介した通り、発達障害を理由に中学受験をあきらめる必要はありません。

むしろ、私立中学は発達障害の子にとって過ごしやすい環境が整っている可能性があります。

もちろん、すべての私立中学が該当するわけではないので、必ず本人と一緒に学校見学へ行って将来について考えてみてくださいね。

子どもの中学受験を検討している保護者の方は、どんな理由から私立中学に入れたいとお考えでしょうか。

ここでは、子どもの特性に合う進路を選ぶのに役立つように「私立」「国公立」「公立(地域内・学区内の中学)」の3つのメリットを紹介します。


以前の記事で詳しく解説したので、ここでは簡単にご紹介します。

発達障害の子が私立中学に受験する最大のメリットは「個」に合う教育を提供してもらえること。

私立中学によって方針は異なりますが、特色のある中学校や発達障害の子を積極的に受け入れているところは、「集団」だけでなく「個」を大事にしています。

たとえば、特色のある中学のなかには「グローバル教育」「ICT教育」といった最先端の教育を取り入れている学校があります。

発達障害の子どもは「英語(海外)」や「パソコン」に関心を持っている子も多いですよね。

また、特にICT教育へ力を入れている場合は文字を書くのが苦手な子も授業を受けやすい環境が整っている場合もあります。

このような点が、発達障害の子どもにとって私立中学受験をするメリットといえるでしょう。


ハイレベルな環境で教育を受けられる国公立中学。

障害者差別解消法の合理的配慮も法的義務となっているので、次のようなお悩みを抱えている子どもにも対応可能な範囲で配慮してくれます。

ただし、発達障害であることを開示した場合のみです。

合理的配慮などが必要ない場合は、学校側に発達障害であることを伝える義務はありません。

また、私立同様に中高一貫校がある国公立中学もあります(地域によっては小中一貫校の場合もあるので、ご注意ください)。

高校受験のストレス軽減になり、学費が抑えられる点で国立中学受験は人気といわれています。


中学受験をするご家庭の場合、ご両親のどちらかが私立出身者であったり、私立の方が教育方針や指導が良いというイメージから選ばれることが多いのではないでしょうか。

確かに良い環境である可能性は高いですが、公立中学に発達障害の子が進学するメリットは次のようなものがあります。

人間関係をリセットしたい子や新しい交友関係を広げたい子もいれば、安心して一緒にいられる子と離れたくない発達障害の子もいるでしょう。

子どもにとっていい環境は、教育方針だけではありません。

子どもと話し合う際は、公立中学進学のメリットデメリットも伝えたうえで一緒に考えてみてくださいね。


私立中学にもともと進学させるつもりだった家庭の場合、公立中学に関する情報が少ないかもしれません。

発達障害と診断されて戸惑う中で、新しい情報を入れるのはなかなか大変でしょう。

ここでは、公立中学に発達障害の子が進学する場合の選択肢を紹介します。

通常学級とはいわゆる30人前後のクラスのことです。

発達障害を持っていない子も一緒の教室となりますが、小学校も通常学級だった子どもからしたら大きく環境は変わりません。

ただし、地域によっては複数の小学校が同じ中学に通います。

人間関係が複雑化する場合もあるので、今まで通りかはいい意味でも悪い意味でも入学してみないとわからない場合もあります。

特別支援学級とは、障害をかかえる児童生徒が少人数で学習できるクラスです。

小学校と中学校に設置されていますが、子どもの学年に合わせた特性や発達段階に合わせた指導を行ってくれます。

特別支援学級は、障害種別で編成されており、8個の障害を対象に7種類の学級が設置されています。

たとえば、東京都豊島区の中学校では次のような分類のようです。

豊島区に限らず、どの地域の小学校も中学校も特別支援学級が設置されている学校は限られています。学区内にあれば家から近いですが、学区外の場合は通学も私立と同じようにバスや電車などを利用するかもしれません。

通級とは、通常学級に通いながら定期的に「通級指導教室」で特性に合わせた指導をしてもらえる制度です。

だいたい週1〜2回の頻度で通っています。

障害を持つ児童のなかでも、知的障害児以外の児童生徒が対象。以前は、学習症やADHDの児童生徒は対象外でしたが2006年に対象者として加わりました。

たとえば、埼玉県入間市の中学校では全校で通級指導が受けられるそうです。

全ての地域がこのような制度ではなく、多くの地域の中学校では2〜4校に設置されているといわれています。

加配とは、障害をもつ児童生徒を通常学級内でサポートする役割の人材が配置される制度です。

配置される人材は、教員や支援員となります。

幼稚園などでは「加配」と呼ばれていますが、小中学校では「学習支援員(特別支援教育支援員)」といいます。

加配制度は確実に誰でも付けられるものではなく、申請等が必要となります。

中学受験を目指す発達障害の子どもは珍しいことではありません。

むしろ、発達障害だとわかってから子どもに適した環境を探したうえで中学受験を決めたご家庭もあります。

大事にしてほしいことは「子どもの今(近しい未来)」だけでなく、長期的な視点で考えること。

なかには「特別扱いされたくない」というお子さんもいますし、同じ発達障害という診断名でも特徴は子ども一人ひとり異なります。

公立中学と中学受験、どちらが子どもに大きなストレスがないかを考えながら、進路選択をしていきましょう。

子どもの将来のことを考えると、より一層「正解」「正しさ」などを考えてしまうと思います。

それくらいお子さんのことが大事なんですよね。

こちらの記事でもお伝えしましたが、発達障害を理由に中学受験をあきらめる必要はありません。

子どもにとってどのような環境があっているのか、子どもが安心して通えるかどうかを考えながら学校を選びましょう。

Gifted Gazeでは、子育てに関する悩みや発達障害に関するご相談を専門家が受け付けています。お気軽にご相談ください。

参考文献