チック症のお子さんがいる親御さんにとって、どう接したらいいのかは悩みの1つですよね。
そこで今回は、チック症やトゥレット症候群の子どもへの対応方法を解説します。
トゥレット症候群の診断基準も説明しているので、チック症が続いている子どもをお持ちの親御さんも参考にしてみてください。
この記事を書いた専門家
いけや さき
公認心理師、臨床心理士
精神科病院、療育施設、心療内科・児童精神科クリニックなど主に医療と福祉領域にて心理士として従事。発達障害の子どもたちや保護者、女性のメンタルヘルス等のサポートを行いながら、webライターとしても活動中。
目次
チック症は治るの?症状や治療について
「チック症は治るのでしょうか?」
このように不安を持つ親は多く、医師などの専門家に、治るかどうかを質問する人はよくいらっしゃいます。
まずは、以下でチック症が治るかどうかについて簡単に解説します。
チック症の症状
まず、チック症は咳払いやうなり、まばたきや顔をしかめるなどの症状が、本人の意図とは関係なく繰り返して出現する症状です。
「音声チック」と「運動チック」があり、さらに持続時間によって「単純性」と「複雑性」にも分けられ、計4種類のチック症状の分類があります。
詳しくは別の記事にまとめているので、症状や原因、医療で行なわれる治療法について知りたい方は、こちらをご覧ください。
チック症は自然に治ることもある
チック症は、4〜6歳で発症しやすく、7歳前後に最もよく見られるといわれています。
10〜12歳くらいで症状が激しくなりますが、12歳以降は徐々に減っていく子どもが多いです。
チック症は男の子に多い病気ですが、成人を迎える前に男女ともに、半数以上の子どもが自然に治るといわれています。
チック症の症状が1年以上続いた場合、「トゥレット症候群」という診断名が付きますが、トゥレット症候群には男の子や女の子などの性別による差はありません。
チック症は完治するの?
チック症は、成長に連れて症状が消える人もいれば、軽減する人もいます。
そのため、絶対に完治するとは言い切れません。
神経学的にはチック症は不随意運動(自分の意志と関係なく出現する運動)とされていて、運動系の疾患として治療を行っているところもあるそうです。
一方で、病気だと思い過ぎないで、まずは個性や癖と思いながら、できる対処法を行っていくことを推奨する医療機関もあります。
明らかな原因は不明だからこそ、さまざまな観点で治療に当たっていく必要があります。
完治するとは言い切れませんが、症状は軽減できるものと捉えて、子どもに合う方法で対応していきましょう。
チック症・トゥレット症候群との付き合い方
子どもにチックの症状が出ている場合は、無理やり治そうとしたり、訓練させるのではなく「自然によくなるだろう」と思っていいでしょう。
しかし、日常生活で困りごとが多かったり、トゥレット症候群の場合などは、児童精神科や小児神経科などで早めに受診をお勧めします。
子ども本人が、チック症の症状に悩んでいることも多いため、悩みをじっくり聞いて解決法を一緒に探してみてください。
子どもがそこまで困っていない場合は、親が症状に過敏にならないように接してあげましょう。以下で具体的な対応方法をご紹介します。
子どものチック症~親ができる対応6選~
保護者の多くは、チック症の我が子を見て「本当に治るのか」「学校でいじめられたらどうしよう」と心配になると思います。
ここでは、チック症の子どもを持つ保護者ができる対応について解説します。
対応1:症状を理解する
まずは対応について考える前に、チック症やトゥレット症候群の理解を深めましょう。
症状の理解をすることで、接し方も工夫できますし、周囲に理解してもらうために役立ちます。
理解を深めるには、以下の方法が考えられます。
・専門家(心理士、医師)に相談する・アドバイスを求める
・専門家が書いた本を読む
・講演会などに行ってみる
ただし、得た情報をすぐ実践したり、自分の子どもにあてはめないようにしましょう。
チック症の症状は複雑で、一定ではないことも多いです。
症状の理解だけでなく、目の前にいる子どもを理解することも忘れないでください。
対応2:叱らない
症状を止めることは、かえって逆効果となる場合が多いです。
意識してほしいのは「叱らない」「注意しない」「怒らない」こと。
ただし、社会的なルールを破ってしまったなど、チック症の子に限らずよくないことをしてしまったときは伝わるように注意してあげてください。
そうではない限り、長い目で見て症状を見守ってあげましょう。
叱るのをやめたからといって、すぐにチック症の症状が軽減するわけではありません。
保護者のみなさんも自分を責めず、長い目で考えてあげてください。
対応3:特別扱いしない
叱らないからといって、必要以上に優しく大事に接する必要はありません。
また、干渉しすぎによってチック症の症状が出る場合もあるので、一番いいのは「特別扱いしない」で今まで通りに接することです。
子どもは大人が思っている以上に、親の気持ちに敏感であることをご存知でしょうか。
子どもから何も言わなくても、親の様子を見ていることは結構あります。
気にしすぎたり、心配しすぎたり、過干渉になりすぎてしまうことで、子どもも気を使ってしまう可能性が出てくるのです。
特別扱いせず、不安や心配なことがある場合は、専門家に相談しましょう。
対応4:トリガーを見つける
焦る必要はないですが、トリガー(チック症状がよく出る場面など)がわかれば、対処法を見つけやすくなることもあります。
チック症は、かつてストレスが原因といわれていたため、カウンセラーなどの心理療法を実施することが多かったようです。
しかし、近年はストレスだけが原因とは限らないといわれています。
ほかの併存症を発見することもあるので、子どもの負担にならない範囲で、様子を見たり話を聴いてみましょう。
対応5:家庭ではリラックスできるようにする
とても難しいのですが、リラックスしていればチックの症状が出ないわけではありません。
学校よりも家庭の方がチック症の症状が出る子どももいます。
不安に感じると思いますが、子どもが話したそうなときにじっくり聴いてあげたり、子どもが安心できるように、穏やかな声掛けをときどきするくらいがいいかもしれません。
また、別の記事で解説したようにチックにはさまざまな症状があり、複数の症状が出ることもあります。
昨日とは違う症状が出現したとしても、慌てず叱らずそっと見守っていきましょう。
対応6:1年以上続いていたら本格治療
1年以上、チック症状が続いている場合はトゥレット症候群の可能性が出てきます。
子どもが生活上困っていなくても、1年以上症状が出ている場合は医療機関を受診しましょう。
子どものチック症やトゥレット症候群は、児童精神科や小児神経科、小児科などで診てもらえます。
大人が通院する精神科や心療内科の場合、子どもの症状には詳しくない医師もいます。
まずはお近くの子どもを専門とする医療機関へ行きましょう。
気軽に、オンラインで医師に相談することもできます。
トゥレット症候群の診断基準
トゥレット症候群の診断基準は以下の通りです。
このすべてに当てはまる場合に「トゥレット症候群」と診断されます。
・複数の運動性チックがある
・1つ以上の音声チックが存在
・チックの症状がはじまってから1年以上
※1年以内に症状がおさまる一過性のものを、暫定的チック症といいます。
いつから発症しているか明確ではない場合や、運動性チックの症状が複数確認できないこともあると思います。
その場合は、親が気づいてから1年近く経っていれば、病院やクリニックへ受診して専門家に診てもらった方が適切に判断してくれます。
なお、トゥレット症候群の発症年齢は、『DSM-5-TR』(『精神疾患のための診断と統計のマニュアル』)によれば18歳未満となっています。
学校にも症状を理解してもらおう
子どもの担任の先生など、関わることの多い先生方にもチック症を理解してもらいましょう。
家では叱られないけど、学校では叱られていては、子どもはどうしたらいいのかわからなくなってしまいます。
親はチック症やトゥレット症候群の理解を深めるとともに、子どもの理解を深めるのも大切だと先ほど解説しましたが、その内容を先生にも伝えてみてください。
もし、先生方が理解してくれなかったり、うまく説明できるか不安であったりする場合は、医師に相談してみましょう。
チック症やトゥレット症候群の子どもが受けられる支援制度
チック症やトゥレット症候群は、脳神経系の疾患であり、発達障害(神経発達症)に分類されている病気です。
発達障害の一種なので、自閉スペクトラム症や注意欠陥多動症(ADHD)の子どもと同様に、医療や福祉の制度を活用できます。
また、関連記事で触れていますが、チック症と自閉スペクトラム症やADHDは合併しやすいため、療育に通っている子どももいます。
治療や支援を受けることはできますが、まず親は1人で抱えず、専門家や自治体の発達相談などに相談してみてください。
おわりに
前回に引き続き、チック症とトゥレット症候群について解説しました。
チック症もトゥレット症候群もまだ、明確な原因はわかっていません。
以前は子育てや心的なストレスだけが原因といわれていましたが、近年の研究では遺伝や生物学的な要因も指摘されています。
子どもの姿を見て不安になると思いますが、今回紹介した対応を意識してみましょう。
また、親も自分の気持ちを我慢する必要はありません。
不安や悩みを相談する場として、Gifted Gazeの専門家相談や医師への相談の場もぜひご活用ください。
参考文献
アメリカ精神医学会(APA)[著]、日本精神神経学会[日本語版用語監修](2023)「DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院
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