「うちの子、ゲームがやめられないんです」
こんな相談を受けることはとても多いです。
現代社会において、ゲームは大人も子どもも楽しむ一方で、その中毒性に悩まされることも少なくありません。
「ゲームがやめられない」という相談は、親御さんにとって日常的な悩みとなっています。
この記事では、ゲーム依存の背景とその対策について詳しく探り、健全なゲームとの向き合い方を提案します。
この記事を書いた専門家
日塔 千裕
公認心理師、臨床心理士
発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。
目次
ゲームを取り巻く状況
ゲームは大人でも中毒性があり、やめられない人は増えています。
世界保健機関(WHO)が2019年に採択した国際疾病分類(ICD-11)で初めて「ゲーム症」が記載されました。
通称として「ゲーム依存」と言われていますが、正式な診断名として国際的な診断基準に記載されたのは本当にここ数年の間なのです。
それほど、ゲームがやめられない人口が世界的に増えている現われでもあるでしょう。
昔は個人のゲーム内で完結していたものが、インターネットの普及に伴い、近年はオンラインゲームが主流となっています。
これがゲームがやめられない人の増加の一因とも言える気はします。
私は、「ゲームがやめられない」ことに注目するのではなく、「やるべきことができているか」に注目するようにお伝えしたいと思います。
学校に行けているか、食事は取れているか、お風呂に入れているか。
こういった、あたり前の日常生活が実行できているかが基準になるでしょう。
この当たり前で、健全なリズムが崩れると、ゲーム依存という子どもの成長にとって良くない状態に足を踏み入れてしまう可能性があります。
ゲームをやめさせようとすれば、子どもはその親の姿勢に反発してゲームをやることに躍起になってしまうリスクもあるのです。
そのため、“やめさせる”ではなく、“やるべきことはやる”に注目して対応を考えていただけるとよいでしょう。
ゲームとの向き合い方の方法
ゲームとの向き合い方はお子さんの性格・特性によって変わってきます。
いくつかのパターンを下記に示していますので、お子さんに合った方法を考えてみましょう。
1. ゲームの実施時間を決める
ゲームの実施時間を決めると言っても、何時から何時がゲームと時刻を決めるのではなく、ゲームの時間は1日1時間などと決めることです。
多くのご家庭では決めている、あるいは親としては決めているのに子どもは守れないということが多いことでしょう。
決めている時間から実際に子どもがやめるまでの時間に繰り返しの指示で、多少の後ろ倒しになるのは仕方のないことです。
子どもにも意思・感情がありますので、親の都合のみで指示されてスパッとゲームをやめることは難しいでしょう。
毎回スパッとやめるという子の方が心配になってしまいます。
10分前後のズレは許容範囲くらいに捉えて、それを見越して声掛けをしていく心づもりはあるとよいかもしれません。
30分程度ずれる日が多いとなると、子どもの実態に合った時間になっていないかもしれないので、時間設定ややり方を変えることを考えてみられた方がよいでしょう。
また、学校がある日と学校が休みの日で1日の過ごし方は変わるため、ゲームの時間にも違いをつけるのも方法です。
ゲームの時間を1日のスケジュールのどの部分にもって来るかは、大きく分けて、下記の3パターンがあります。
(1)どの時間でやるかは子どもに任せる
その日の子どもの気分次第で、どの時間をゲームの時間にするかは子どもの判断に任せます。
先にゲームをやる日もあれば、先に宿題などを終わらせてからゲームをやる日もあるでしょう。
そこには口を出さずに、子どもにその日のスケジュールを決めさせる方法です。
(2)やるべきことが終わったら、ゲームの時間
「学校の宿題が終わらせて、夕飯までの間」、「学校の宿題やご飯、お風呂などやるべきことがすべて終わり、寝るまでの時間の間
など、その日にやらなければならないことがまず先で、それらが終わった後のご褒美的な位置付けで、ゲームの時間を設けるという方法です。
お子さんによっては、ゲームをやりたいために、やるべきことを早く終わらせようと、やるべきことが雑になってしまうこともあるでしょう。
その場合は、やるべきことに取り組む際のポイントを決めてみてください。
たとえば、歯磨きなら○分は磨くとタイマーなどで測定する、勉強であれば答え合わせてもして直しまで行い正しく回答できるまでが完了とするなど、内容によって考えてみてください。
その際、親御さんとして望む100%の達成ではなく、6~7割の達成度に下げて達成水準としてOKを出すラインを決めてあげましょう。
それを決めても難しい場合は、下記3)や②の方法の方が合っているタイプかもしれません。
(3)やるべきことの前に、ゲームの時間
お子さんによって、後にご褒美があるとがんばれる子と、後のご褒美ではがんばれず先に好きなことがあった方がその後にやるべきことに取り組めるタイプの子がいます。
こちらは、ご褒美があるから先にがんばろうが効かないタイプの子です。
言い方を変えると、先に好きなことをやって気持ちをリフレッシュさせた方が、その後にがんばれる子です。
特に平日はすでに学校でがんばってきているので、家に帰ってからさらにがんばってではなく、一度ゲームをして気分転換。気持ちの切り替え、リセットさせるのです。
その方が家でやらなければならないことに気持ちを向けやすくなります。
2. やるべきことが終わっていればゲームは自由に
ゲームのやりすぎは脳や視力への影響が心配という親御さんも、もちろんたくさんいます。
だから時間を制限するという対応を行う方は多いです。
その心配も当然ですが、人間の心理として、制限されればされるほど反発したくなる。子どもの発達として、多くの場合が通るプロセスです。
むしろ反発することなく、親の指示通りに行動するばかりの子の方が子どもの成長として、将来を考えると心配になってしまいます。
反発することは一般的な発達ではありますが、毎日を指示して、子どもから反発されるなんてやり取りをくり返していたら、当然、親の方も疲弊してしまいます。
将来を考えた際の心配はあると思いますが、優先順位として、目の前の日々のやるべきことは最低限やることを優先的に考えてもよいと思います。
ゲームの大会もできるほど、ゲームがあることがあたり前の時代になってきているのですから、ゲームのネガティブな側面ばかりに注目する必要も減ってきている時代です。
それよりも目の間の日常をよりスムーズに遂行する方法として、制限ではなく、「やるべきことをやる」ということには口を出す。それさえすれば、別にゲームはしていいよというスタンスでゲームのことには口を出さないという方法です。
ただし、食事の時間、就寝時間などの時間は決めて、自由時間は好きなようにしましょう。
「家庭生活でのルールは守ってね」とお子さんに伝え、「それが守られればゲームのことは何も言わないよ」というお子さんを信じる姿勢を示す意味合いが強くなる方法です。
具体的には、以下の2つのパターンがあります。
(1)最初にやるべきことが終わったら、ゲームの制限なし
最初にやるべきことをやる、終わったら、就寝時間等の予定時間まではゲームの制限をしないという方法です。
後に好きなこと、楽しみがあるとがんばれるタイプの子に向いている方法です。
最初に宿題や食事、お風呂などやるべきことを終わらせて、残った時間は無制限でゲームし放題。と言っても、こちらも就寝時間は決めておき、そこまでの時間までという制限はあります。
(2)最初のゲーム時間のみ時間制限
最初のゲーム時間のみ時間制限その後にやるべきことが終われば、次は制限をしない方法です。
特に平日に学校でがんばってきて、すぐに家でもがんばるということが難しいタイプの子は、一度ゲームで気持ちのリセットが必要な場合もあります。
そのような子の場合は、最初のゲーム時間のみ、30分や1時間など決めます。
そこで気分転換をして、その後、宿題などのやるべきことをやる。
やるべきことが終わった後の余った時間は、就寝時間まで自由にゲーム時間にもできるという方法です。
年齢に応じてゲームのルールの見直しを
当然ですが、年齢により、お子さんの意思も、生活状況も変わってきます。そのため、学年が変わるときに見直すタイミングを作ることができるとよいでしょう。
どうしても親子関係の中では、親御さんが指示する人、子どもが指示される人と上下関係になりがちです。
それにより、親御さんは子どもが言うことを聞かないと相談を受けることは多いです。
ただ、ここまでに何度か記載していますが、お子さんにも意思・感情はあり、それは親御さんとは異なるものです。
子どもが言うことを聞かないという状況は、そこを無視している状況とも言えるような気がします。
ご家庭でルールと言っていることも、親御さんが一方的に決めたルールになっていることも正直あります。
幼児期はそれでOKです。ただ、年齢があがってきて、小学生にもなればお子さんも自分の意思を言葉で伝える力がついてきます。
お子さんの気持ちも汲んで、親御さんの意向と合わせて、折衷案でルールを決めることが大切です。
理想としては、今までのルールが通用しなくなったから変えようとするよりは、学年の始まり、春休みに家族会議などを設けて、「○年生はこういうスケジュールでがんばろう」などと目標のようにゲームの時間や勉強の時間などを決められるとよいですね。
お子さんの意見も聞きながら組み込んでいくことで、自分で決めたことになるので、自分で決めたから守ろうという意識も高めることに繋がっていきます。
これが小学校低学年の頃からできているとよいですね。
ゲーム終了の合図のポイント
1. タイマーを活用する
ゲームの終了時間は、タイマーを活用し、音で分かるようにできるとよいでしょう。
ゲームに夢中になっていると、まず時計を見るという動作はしません。
タイマーも設定できる年齢であれば、自分で設定させるようにすることが望ましいです。
その方が、自分で終わり時間をきちんと定めたということになります。
ただ、今のゲームはセーブできる場所に制限があったりするなど、時間だけで区切れない場合がありまうす。
タイマーが鳴ったから即終わりではなく、タイマーが鳴った、「じゃあ、どこまでで終われる?」とその後の一番近いセーブができる場所を聞いて、そこまでいったら終わりなどと次の終了ポイントを定める必要があることが多いです。
2. 淡々と、同じ言葉を繰り返す
そこまで対応したら、それ以降は、「終わりです」と淡々と伝えていきましょう。
この際の声掛けのポイントは、淡々と短い言葉で同じ言葉を繰り返し伝えるということです。
終わりであることを伝え、終わらせることが目的です。
感情を乗せてしまうと、怒られているということは伝わりますが、怒られたからやめるというパターンになってしまうと、時間を守って終わらせるということが子どもの中に落とし込めなくなります。
今後も怒り続けないとゲームをやめられないという親子関係のサイクルになって抜け出せなくなる可能性があります。
そのため、淡々と短い言葉で同じ言葉を繰り返し伝えることが大事です。
おわりに
ゲームとの適切な付き合い方を見つけることは、子どもの成長と健康にとって大切なことですが、なかなかコントロールすることが難しいと思います。
この記事で紹介した方法を参考に、楽しくゲームを楽しみながらも、やるべきことをしっかりと守る習慣を身につけることが大切ですね。
参考文献
ICD-11(国際疾病分類 第11版) WHO(世界保健機関)